柴田書店MOOK
発行年月:2010年3月2日
判型:A4変 頁数:192頁
定価: 2,310円(税込)
中国料理がいま面白い。
そんな噂を聞きつけて取材を開始したのは去年の秋も深まる頃でした。
当初の仮タイトルは「新しい中国料理」。
しかし、時代とともに変貌する料理のエッセンスを追いかけるうちに、
それは定番料理の中にこそあるのだと気づかされました。
中国料理ではだしを「湯(タン)」といいますが、
湯の配合や使い方にはじまり、
油の量のコントロール(油は控える方向性にあります)や
盛りつけの方法まで、定番料理は進化しています。
この理由を考えてみました。
つまり、中国料理店では定番の注文率がとても高いに違いありません。
「よくわからないお客さまは大抵、
酢豚と麻婆豆腐を注文されます」という話は、よく現場でも耳にしました。
一番売れる料理、一番つくられている料理、
そして、一番奥が深い料理が、定番料理なのだと思います。
◎ラー油の材料
油に対して使う材料の
種類と量が多い。
中国料理の取材は熱と油、スピードとの戦いです。
とくに撮影するカメラマンにとっては
「中国料理のプロセス写真」は技量の試される仕事。
400度近くまでになる超高温の鉄鍋に接近して、
動く鍋の中を撮らなければならなりません。
カメラも手も油でベトベト。
「命がけだねえ」と笑いながら、料理長たちは容赦なく鍋をふります。
ほとんどは営業時間の合間に取材しますから、
時間が限られる中で、お互いにやり直しはきかない。
まさに勝負、という感じでした。
定番料理が撮りたいとお願いした時、
ある料理長がこんなふうに言いました。
「ほんとうに定番ばっかりだね、でも・・・、ベーシックが一番難しいからねえ」。
百戦錬磨の料理長がふともらしたこの一言が、非常に重みをもって響いてきました。
定番がいちばん、奥が深い。
この1冊の中に、中国料理の現代が詰まっている、そんな本になったと思います。