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2017年09月05日
『「イデミ スギノ」進化する菓子』
著者:杉野 英実
発行年月:2017年9月9日
判型:A4変上製 頁数:376頁
杉野さんのお菓子といえばムース。そして繊細な素材感の表現です。ゆえに当初は本のタイトルを前著『素材より素材らしく』から発展させたものするつもりで考えていました。
しかし、撮影して食べ、取材して原稿を書きはじめると、神戸時代とは驚くほどお菓子が変わっているのに気づきました。前取材もしていましたが、やはり聞くと見るでは大違いでした。
一番顕著なのはバタークリームのケーキです。もうこれは食べてすぐにわかります。バタークリームとは思えないほど軽いし、ジュレを挟んでいてフルーティです。ジュレをバタークリームに重ねるのは簡単ではありません。滑りやすいからです。滑らないようにするためのちょっとした工夫は、日々の厨房での仕事の積み重ねで生み出されてきました。
かつて生地の種類もアーモンドのビスキュイ、ピスタチオ風味、コーヒー風味、チョコレート風味と限られていました。だから基本頁を参照すればこと足りたのです。しかし、その基本の生地は増えていました。ハーブソースを加えたもの、ドライフルーツを散らしたもの、そしておそらく見たことがなかったピュレ入りも加わりました。さらにピュレ入りにドライフルーツを散らした生地もあったりします。
飾りに使うパーツなども『素材より素材らしく』の時よりははるかに多く、基本の技術の頁数は実に予定していた頁数の2倍となりました。
なぜそんなに基本の生地やパーツ、クリームが増えていったのでしょうか。
それは、めざすおいしさにたどり着こうと新しい味づくりを試し続けて、使うパーツを加えてきたからでした。
ピュレ入りの生地はクリスマスケーキのアントルメを考えている時に生まれます。コーヒー風味のチョコレートのタルトレットにのせたクレーム・シャンティイにコーヒーを加えてみたら「カプチーノのような味わいになった」と発見し、カプチーノが完成にいたります。初めは清涼感を加えたいとムースに入れていたジュレを、ソース感覚でマカロンにも入れてみたらフレッシュ感が増した発見。一方、グレープフルーツ風味のパウンドケーキには、特有の苦味と甘みを加えたいと飾り用のグレープフルーツのコンフィのみじん切りを乾燥焼きして使ってみて、グレープフルーツ感が際立つことを知ります。
こうしておいしい味を求め、日々厨房でつくっては食べて感じ、考えることで杉野さんのお菓子は少しずつ変化してきました。いや、進化してきたのです。モノマネではなく、おいしさだけを求めてきた結果でした。
これはもう、素材がどうとかではなくて、杉野さんのおいしさを求める日々の仕事によってお菓子が進化してきたとしか言いようがありません。
技術もパーツもプラスして、新しい生地もおいしい新しいケーキも生まれます。
そして、本のタイトルはこれしかないという「進化する菓子」になりました。
投稿者 webmaster : 2017年09月05日 16:50