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2010年12月22日
料理本のソムリエ [ vo.14 ]
【 vol.14 】
黄身返し卵にトライ!!
今回もエル・ブジつながりの話です。フェランの料理は意表をつくファーストインパクトに重きをおいておりますが、これってちょっと科学マジックに似ていますね。この素材はこういうふうに調理するのが当たり前、この料理は本来こういうもの、といった常識が覆されるところに面白みがあります。
ただし、マジックショーを楽しむには観客は演者の指示に従わねばなりません(トランプの中から1枚選んでほしいと言われたのに、むんずと3枚つかみ取ったりしたら、ステージが台無しになりますよね)。エル・ブジの料理も同様で、食べるのに店が指定する作法や手順を踏まねばならないものがあります。たとえば前回紹介した二層式のグリーンピースのスープは、冷めないうちに一気に飲んでもらわないと効果が半減します。ですが、店側から指示されるのがわずらわしい、お仕着せだと感じる人には面白くないでしょう。
また世の中には、マジックを娯楽として楽しめない人たちもいます。驚かされるのを素直に喜べない、「だまされた、くやしーい」と感じる性分の人です。タネを教えるまでは絶対に解放してくれなかったり…。常に自分が優位に立っていないと気がすまないんでしょうか。実は食通ぶっている自慢しいの料理評論家やブロガーにはこのタイプの人たちが結構います(その証拠に、彼らは自分だけが知っている“隠れた名店”を紹介するのが大好きですし、自分の知らない特別なサービスを受けている客がいると思い込んだら敵意を丸出しにしたりもします)。
さらに覆そうにも、常識を持ち合わせていないと覆しようがありません。「この料理は当然こういう味のはずだ…」という知識のある人ほど意表をつかれるのです。エル・ブジのスペシャリテの一つにカリフラワーを細かくきざんでまるでクスクスのように仕立てた料理がありますが、カリフラワーもクスクスも見たことも食べたこともない人にとっては、単なる未知の料理でしかありません。
だからエル・ブジの料理は誰にでもお勧めできるものではありません。ところが日本のマスコミは、世界で一番予約の難しい店、世界最高の料理(最先端と最高は別のものなのに)などといった浅薄な取り上げ方をしました。マジックショーを見る前に半可通の第三者からタネ明かしされても、そんなに楽しいものではないと思うのですが…。
エル・ブジ風の料理を作る人たちも増えましたが、同じタネで見よう見まねで演じられても、同じ感動を与えることができるとは限りません。すぐれたマジシャンはタネが奇想天外なわけでも手先がずば抜けて器用なわけでもなく、話術や誘導の仕方にこそ本領があります。エル・ブジの料理も、その魅力を理解して、そこを自分なりにお客に伝えようとしないとただの素人芸に終わってしまいます。忘年会の隠し芸の手品がいまいちつまらないのは、演者がつい自慢げに見せてしまうから。エンターテイメントとして観客を楽しませようという配慮が欠けているのが原因です。「流行のエル・ブジ風です! どうです、すごいでしょう?」と得意満面で説明されては、お客さんは鼻白んでしまいます。
そもそもサプライズ料理や見立て料理であれば、スペインくんだりに範を求めようとせずとも、わが国には江戸時代からの伝統があります。その筆頭が「黄身返し玉子」。黄身と白身の位置関係が反転していて、黄身が外側に、白身が芯に詰まっているという世にも不思議な玉子料理です。天明5(1785)年の『万宝料理秘密箱』という料理書に出ておりまして、料理研究家の奧村彪生氏が再現してみせたレシピ本で見ることができます。奥村氏は篠田統先生(vol.3参照)が主宰した料理文献の講読会のメンバーであり、講読会ではこの本を読み解きながら料理の再現にも努めてきたそうで、一部は現代人向けにアレンジするなどの工夫もされています。卵白に金箔を加えて湯煎で焼いたり、ゆで玉子を四角く整形してみたり、紫蘇に漬けてみたりというふうに、現代人には思いもつかないようなアイデアが詰まっており、興味深いです。ただしこのレシピ本のキャッチフレーズは「いきなり差がつく自慢できる111のレシピ集」なんですが、世にも珍しい江戸の玉子料理が作れても自慢はほどほどにしたほうが賢明だと思いますよ。
さて黄身返し玉子の製法ですが、万宝料理秘密箱によると、殻に針で穴を開け、糠味噌に3日間ほど漬けてからゆでると、黄身と白身がひっくり返るというのです。しかし実際にはこの方法ではうまくいきません。そのため、ハッタリの類として片付けられていました。
ところが登場から200年余り経った平成の世になって、黄身返し玉子を再現することに、京都女子大学の八田一郎先生が見事成功しました。当時の卵は有精卵だったので、孵化が始まって3日から4日目頃には卵黄が水っぽい状態になる一方で、卵白のほうは粘度が高まります。そのためショックを与えて卵黄を崩してやれば、卵黄が卵白をくるんだ状態が作れることがわかったのです。
この成功をうけてテレビ番組でも黄身返し卵が取り上げられ、無精卵を使った黄身返し卵の再現法も紹介されています。『続々伊東家の食卓裏ワザ大全集21世紀版』に収録されているのは、卵に小さな穴を開けて、そこから針金を突っ込んで卵黄を強引に崩してしまうという方法です。ところがこの方法も難しいらしく、慣れた人でも2回に1回くらいしかうまくいかないとか。
のちに八田先生は、卵をぶんぶんゴマ(子供の頃にボタンで作ったアレです)の原理で激しく回転させて卵黄を崩すという方法を開発しました(本は見当たりませんでしたが、日清食品のインスタントラーメン発明記念館のHPで詳しく紹介されています)。以前伊東家の方法ではうまく作れず、あきらめていた私ですが、早速これに飛びついてみました。その成果が下の写真。回しすぎて殻の中でとき卵状態になったらしく、「黄身だけ玉子」になってしまいました。まあ、これはこれでぷりぷりした食感で、面白い味ではありましたが(負け惜しみ)。その後、再トライしてみたものの、殻が破れて爆発したり・・・。
一番右の物が比較的うまくいきましたが、黄身返し玉子の道は遠く険しいです。
それにしても『万宝料理秘密箱』ってタイトルからして手品の本みたいですよね。著者もそれを意識していたのかもしれません。アマチュアマジシャンにしてミステリー作家だった故・泡坂妻夫氏の『大江戸奇術考』に「奇術と料理」という1章がありまして、そこで料理と手品の近縁関係について解説されております。江戸の末に刊行された『料理こんだて手品伝授』という本にも黄身返し玉子が紹介されているのだそうですが、これは既存の料理本2種と手品の解説本2種を勝手に組み合わせたという、ずいぶん安直な本なのだとか。作者にしてみれば料理のコツも手品のタネ明かしも、読者ニーズは同じと思ったのでしょうね。テレビの裏ワザ番組の人気の高さに通じるものがあるような気もいたします。
そういえば江戸時代きっての名料亭である「八百善」では、鉢植えの茄子を枝につけたまま漬物にしてみせたという話もあります。また『万宝料理秘密箱』と同じ天明5年に出版された『大根料理秘伝抄』という本に紹介されている「輪違大根」は、鎖のような形に切り出されておりまして(左のイラストの要領です)まるで曲芸のようです(そういえば、以前これの作り方について、テレビ局から会社に問合せがきたことがありました)。こうしたちょっとした不思議は、宴席を盛り上げるいいスパイスになったことでしょう。ただし鉢植えナスの漬物も、輪違大根も、食べておいしいとは思えません。あくまでも余興にすぎず、ここに重きをおいては本末転倒です。
エル・ブジの料理を取り上げるマスコミの一部は、こうした手品的料理とごっちゃにしているような気もします。彼の本質は今までにない方法で、新しい触感や味を生み出す試みのほうにあると思うのですが。
投稿者 webmaster : 18:12
2010年12月21日
家でつくれる本格レシピ!
『はじめてのベトナム料理』 編集担当者より♪
『はじめてのベトナム料理』
著者:足立由美子、伊藤 忍、鈴木珠美 共著
発行年月:2010年12月25日
判型:B5 頁数:116頁
全国のベトナム料理愛好家のみなさま、こんにちは!
足立由美子さん、伊藤 忍さん、鈴木珠美さん共著のレシピ集、
『はじめてのベトナム料理』が発売となります。
ベトナムは地域によっては寒い時期もあるので、
スープや煮ものなど、いまの季節にぴったりな温かいお料理にも
おいしいものがいっぱい!
たとえば、こんなスープはいかが?
◎じゃがいもとスペアリブのスープ
(鈴木珠美さんレシピ)
ヌックマムで下味をつけたスペアリブをゆで、
じゃがいもを加えてほくほくになるまで
煮たものです。
簡単で、体の芯からあたたまります。
いまや我が家の定番料理。
しみじみおいしいベトナム北部の味です。
もちろん、みんなが大好きな
あの人気料理も収録!
◎生春巻き
(伊藤 忍さんレシピ)
生春巻きを上手に巻くコツは、
「どの具材を、どこに、
どれくらいの量のせるか」なんです。
プロセス写真入りで
しっかりお伝えします。
ビール好きのベトナム人は、
おいしいおつまみを考えるのが
とても上手なんだとか。
◎油揚げ カリカリレモングラス風味
(足立由美子さんレシピ)
カリカリに炒めたレモングラスを、
カリッと焼いた油揚げにのせただけ。
気軽につくれて、ビールがすすむこと間違いなし。
というか、すすみすぎてしまうので、ご注意ください!
と、定番料理、おつまみ、ふだんのおかず、デザートと、
あらゆるシーンで活躍するベトナム料理のレシピをたっぷり収めました。
ベトナム料理ビギナーはもちろん、
マニアの方にもご満足いただける1冊になっています。
ちなみに、本の打合せがはじまったのは、今年の春ごろ。
撮影が夏と決まると、著者のみなさんから次々と、
「ベトナムに行ってきま?す」というお知らせが……。
撮影前にもう一度本場の味を確かめて
レシピを練り直したいから、だというのです(感激)!
主におつまみの章をご担当くださった足立さんは、
各地のビアホイ(ビアホール)を毎晩訪れては、つまみの研究。
ご飯に合うおかずをいろいろとご提案くださった伊藤さんは、
現地の食堂やレストランの食べ歩き。
フォーなどの定番料理や家庭料理をつくってくださった鈴木さんは、
料理の師匠に会って話を聞いたり、行きつけの店の店主に取材したり。
本書は、そうしてつくられた珠玉のレシピ集です。
ベトナム料理が好きなすべての方に、
自信をもっておすすめしたいと思います!
投稿者 webmaster : 15:08
2010年12月17日
登場する野菜は190種以上!!
「野菜のチカラ」編集担当者より♪
『イタリア料理 野菜のチカラ』
柴田書店編
発行年月:2010年12月16日
判型:B5変 頁数:232頁
料理の話に入る前に、まずは野菜の話。
それがいつもの取材の流れ。
「○△さんの畑で今朝採ってきたんだよ」
「スタッフの親父さんが裏山で採って送ってくれた」と、
どのシェフも野菜について語り出したら止まりません。
突然、送られてきたばかりの野菜を手にとり、
土をぱっぱと払い落として口に運び、
「んー うまいね」と感慨にひたるシェフも。
野菜をおいしい料理に変えるには、野菜に対する愛情、
そして産地や生産者への感謝を忘れない姿勢が何より重要である、
そう教えてくれた気がします。
本書は、そんな野菜に“ハマる”きっかけになること受け合いです。
野菜料理はブームで終わりません!!
野菜のポテンシャルをぐっと引き出した料理の数々に、
野菜料理のさらなる可能性を感じていただけるはずです。
投稿者 webmaster : 09:44
2010年12月15日
料理本のソムリエ [ vo.13 ]
【 vol.13 】
レシピを公表する勇気と侠気
前回紹介した五色の酒ですが、フェラン・アドリアのスペシャリテである「ミント風味のグリーンピースのスープ」みたいだ…と思われた方がいるかもしれません。この料理は冷たいスープの上に熱いスープをそっと流し、2層の状態にしたもの。それと知らずにくいっと一気に飲み干すと、湯気を立てていた熱いスープのはずが途中で冷たいスープに変わる。飲み始めと飲み終わりで温度差のある液体が口の中に飛び込んできて驚かされるという仕掛けです。五色の酒は色のコントラストの美しさに価値を置きますが、こちらは温度のコントラストがポイントでして、同じグリーンピースのスープでも、温度が異なれば引き出されるおいしさも違うことがよくわかります。一品で二度おいしい、というわけです。
こうした意外性に満ちた料理を発表し続けたのが、スペインのロサスという非常に交通の便の悪いところにありながら、世界中からお客を集めるレストラン「エル・ブジ(el Bulli)」です(カタルーニャ方言の発音に近い「エル・ブリ」と表記するほうが正しい、と言い立てる本もありますが、フェランを日本に紹介した功労者であるスペイン料理研究家の渡辺万里氏に敬意を表して、標準スペイン語のエル・ブジで通させていただきます。向こうじゃ普通にスペイン発音で呼ばれているそうですし)。欧米の料理界に旋風を巻き起こし、日本でもいろんな媒体で取り上げられました。いっとき、エル・ブジをまねた料理もあちこちで見かけましたね。一方で彼の料理は意表をつくだけだとか、科学実験みたいで肝心の味はさっぱりだとか毀誉褒貶も激しかったです。
私自身はエル・ブジの料理を食べたことがありませんので、わざわざスペインまで出向いて召し上がられた方たちの足元にも及びませんが、それを承知で一言申しますと、持ち上げる方もけなす方も日本のマスコミはどこまでわかっているんですかね…。エル・ブジの料理書としては、CD‐ROMつきの角川書店の『エルブリ1998‐2002』や凝った造りのファイドンの『エル・ブリの一日』などやたらにぶ厚くて高価な本が知られているため、なかなかお手にとりづらいのかもしれませんが、渡辺氏の『エル・ブジ至極のレシピ集』や私どもの『エル・ブジ コレクション』や『スペインが止まらない』のシリーズもございます。こちらは薄くても料理のレシピが載っておりますので、ちゃんと読んでよく勉強するように。
というのも、いわゆるリョーリヒョーロンカの方々は、精神論や経験談はお好きなのですが、料理のレシピにはご関心ない。「料理長こだわりのどこそこ産のホンモノの食材を使った(この食材の説明がまた、体がかゆくなるほど知ったかぶりで恥ずかしい)」と「旬の素材の持ち味を引き出している(でも、その持ち味ってどんなもので、どうやって引き出したのかはえてして書いてない)」という2種類の決め台詞で、法務大臣並の激務を乗り切ってこられた。そんな方たちが突然、エル・ブジの料理の作り方がいかにユニークであるかを訳知り顔で語り出したものだから、ちょっと苦笑してしまいました。
音楽を鑑賞するのに楽譜を読めなければならない、楽器の一つも弾けなければならないという道理はありません。でも、まがりなりにも評論家を自称されるなら楽譜にも目を通したほうが、いえ、せめて楽器の名前くらいは知っておいたほうがよいのでは…。レシピからは食事の感動やリアルな味を想像するのは困難ですが、料理の構造と作り手の意図くらいは探れます。ところが普段からレシピを読み飛ばしてらっしゃる評論家先生やブロガー先生ほど、聞きかじりの薀蓄を語りたがるんですよねえ。感動や味を表現する筆力のなさを隠すためなんでしょうかねえ。
まあ、レシピが読める同業者においても、フェランの真意をどこまで理解できているかというと、難しいのは事実なんですが。たとえばフェランは、ソースをガスでムース状にしたり、海草由来の凝固剤で固めたゼリーを温めて提供したりというように新しい食感の創造に熱心ですよね。しかし口に入れた時の印象を左右するのは固さや温度以外にも、料理のポーション、すなわちどれくらいの大きさのものが口に入るかも重要なんです。ちょっとぴんとこないかもしれませんが、試しにティースプーンでちまちまカレーを食べてみてください。普段とちょっと違う印象に、ひと口の量が味に深く関わっていることがわかると思います。
エル・ブジの料理のもう一つの特徴である、串に刺したりスプーンにのせたりする盛り付けは、見た目の奇抜さや美しさだけでなく、口に入る量をコントロールする効果もあります。そこを計算に入れて味を組み立てているわけです。ところが、日本のエル・ブジもどきの料理はこうしたプレゼンテーションだけをなぞってただ刺したり、のせたりしただけのものも多かったように見受けられます。おまけにエル・ブジ風をやたら喧伝するものだから、事前にどんな料理が出てくるか想像できて驚きもありません。
フェランのほうからすれば、エル・ブジまがいの料理が世に広まることは、自分の首を絞めることになります。映画館でミステリー大作を封切る前に、下手なライターが書いたノベライズであらすじが広まってしまうようなものです。にもかかわらず、新しいアイディアを公表しているところに彼のすごさがうかがえます。マスコミに公表することで発明のプライオリティを確立するという合理的な考えです。また、アイディアは真似されてもされなくてもいつか陳腐化するのは避けられませんが、そのスピードを上回る速さで新しい料理を創造できるという自信のなせるわざでもあるのでしょう。
一方日本の料理人の世界では、同じ店のスタッフの間でさえ調理上の秘密を隠すなんてみみっちい話をよく聞きます。鍋洗いのスタッフが鍋底に残った汁を味見できないようにわざと洗剤を入れてから渡すとか、肝心要の作業は別室でこっそり行なうとか。それでいて、「あいつにおれの仕事を盗まれた」とかなんとか、やたら言い立てる。まあ、おおむねこういうタイプの料理人は、自分の技量がたいしたことがないのがばれるのが怖くて隠しているのでしょう。
祇園の料理人、西岡長久氏の随筆『京料理のこころ にしきぎ』にこんな話が出てきます。著者の師匠がこれまでの仕事を集大成した本の出版記念パーティ上で「この書物が出版、販売された今日この時より、私たちのどの店においても、この書物に写された、いずれの趣向や演出も使ってならないと覚悟するように申し送った」というのです。その店で修業しているスタッフや弟子たちにしてみれば、せっかく習ってきた料理を師匠が本で公表するのはただでさえ面白くないでしょうが、師匠からすればそんな了見はとんでもない、過去の私の料理なんぞは越えてみせよと、ハッパをかけたというわけです。
ちなみに西岡氏のこの本は『宗教と現代』という仏教関係の雑誌の連載をまとめたものだけあって、ちょっとまじめすぎるほどまじめな内容なのですが、文体に品があり、知識の丸写しなどではなく著者の経験が散りばめられていて読み応えがあります。何より仕事の悩みや正直な気持ちが書かれていまして、好感がもてます。
西岡氏はもう1冊『西花見小路 料理人の伝言』という随筆も出しておりまして、こちらは新聞連載をまとめているため1話2ページの構成なうえに話題も季節の料理が中心で、気軽に楽しめます。それでいて食材の描写にも持ち味の表現にも西岡氏独自の視点があり、料理評論家諸氏の追随を許しません。巻末にはちょっと長くて厳しい内容の「料理人をめざす若者に」という章がありますが、これは、すでに料理人になってかれこれ何年という人たちも、これから料理人をめざすにはちょっと勇気のいるおじさんたちも、ぜひ読んでいただきたい。たとえばこんな一文も。
「新しい発見をした時など、そのまますぐに教えるのは、いささか惜しいような気がすることもある。もう少し、自分の手の中で暖めておきたい気持ちだけれど、結局、教えてしまって、喜びをわかち合う。人が真似て、同じようなものが作られるが、それは仕方がない。新しい料理を考え、創り出す行為は逆の場合だってあり得るのだから」
新しい料理を思いついた誇らしさとちらりとよぎる独占欲。しかしそれを上回る、感動と進歩をみんなと共有したいという気持ち。ああ、この人は心底料理好きなんだなあ、というのが伝わってきます。そして、弟子への愛情も。
投稿者 webmaster : 16:49
2010年12月13日
『野菜でオードヴル』著者、音羽氏「料理マスターズ」を受賞!
投稿者 webmaster : 10:27
2010年12月10日
「なるほど、とうなづけるチョコレート使い」 編集担当者より♪
著者:ル・コルドン・ブルー
発行年月:2010年12月13日
判型:B5変 頁数:228頁
フランス人の菓子職人を取材して
書籍にまとめたのはこれがはじめてです。
「フランス人シェフはやはり違うよ」、と言っていた
日置武晴カメラマンの言葉が少し理解できた仕事でした。
なによりも形から入らず、なぜそうやるかを合理的に考えて動く。
それも頭で考える、というよりは体の中に染み込んでいる技術が
あふれてくるような感覚。
このためか「軽々と仕事をこなす」ように見えました。
チョコレートは日本ではまだまだ浸透していないお菓子であり、
技術なのでとくにそう感じたのかもしれません。
チョコレートはあらゆる点で温度管理が必要な食材です。
ある温度以下だと急にキュッと締まって固くなり、
ある温度以上だと溶けてしまいます。
型に流す時もこの特性をわかっていないと、
とり出すタイミングが遅すぎて冷えて固くなれば
割れてしまったりもします。
この温度をコントロールすることで
自由自在にボンボンがつくれることを、
かろやかに教えていただきました。
たとえばコーティングするチョコレートを厚くしたい場合は、
とろみを上げる感覚で温度を少しだけ低くします。
逆に薄くしたい時は温度を少し上げたり。
樹脂製の型を使ったピエスに
「子ども用ギフト」があります。
ここで使ったのは余分にカカオバターを加えて
柔らかくしたチョコレートでした。
レゴでつくった自家製の型は細かい溝がたくさんあります。
それを型どるのには流動性が高いチョコレートが必要だったのです。
味は本来のチョコレートよりも劣ります。
しかし、子どもが楽しめる形であることを優先させました。
また、樹脂製型は柔らかく、
手に持って作業すると簡単に変形してしまいます。
樹脂製型の場合は、トレイの上で固定して型どりをして見せてくれました。
動いたら形が崩れてしまうからです。
言われてみれば、あたり前の動作なのですが。
つくり手が優秀だったからかもしれませんけれど、
「なるほどね」とうなづける場面が多く、
それがフランス人なのかな、と思った書籍でした。
この点は、チョコレート上級者にも楽しめるのではないかと思います。
投稿者 webmaster : 10:24