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2011年03月04日
酒のみにとって垂涎の肴♪ 『煮込み』 編集担当者より
『居酒屋の定番 煮込み』
著者:柴田書店
発行年月:2011年2月24日
判型:B5 頁数:88頁
私はかつてもつ嫌いだった。
焼肉屋ではもっぱらロース、もつ鍋屋には行かない。
それを変えたのが、
本書でも紹介している「山利喜」の煮込みとの出会いだ。
脂をたっぷりと残したもつはとことん甘く、
すっと溶けて消えてしまう。
気が付けば、もつの旨みが染み出た煮汁まで
残さずたいらげていた。
これまで私が食べていた、口の中で独特のにおいを放ち、
強情に居残ろうとするもつは何だったのだ。
そんな怒りもわいたが、
もつと恋仲になった幸せな気持ちが勝った。
不思議なもので、いったんもつに対する印象が変わると、
あらゆる煮込みに抵抗がなくなる。
山利喜は牛もつを赤味噌で煮たものだが、
「銀座ささもと」は豚もつと信州味噌、
「赤津加」は鶏もつと信州味噌&醤油、
と店によって材料も味付けも千差万別。
牛ロースや牛すじを使った煮込みにも出会い、
きわめて広く、深い煮込みの世界に圧倒された。
煮込み探求は、
古き良き大衆居酒屋を訪ね歩くことでもある。
明治、大正、昭和初期、そんな時代に創業した老舗や名店は、
若輩者の私にはワンダーランドと映った。
名物の串煮込みを含め、
たった3品のメニューで勝負する「大坂屋」。
何十年も鍋の番を務める看板娘と気風のいいお客が、
絶妙な掛け合いを見せる「河本」。
月並な言い方だが“繁盛の秘訣”みたいなものが、
店のそこかしこに散らばっていた。
「煮込みだけではない、
店の空気感まで表現できる本をつくろう」。
そう決心するも、老舗、名店相手の取材は一筋縄ではいかない。
けんもほろろに取材を断られることもあるし、
老舗の味をレシピ化するのも難儀なこと。
しかし、すっかりしぼんだ気持ちを癒し、
ふたたび膨らませてくれるのも、煮込みであり、大衆居酒屋だった。
私がそうだったように、昔ながらの大衆居酒屋に、
“閉ざされた文化”という思い込みを持ったり、
一家言ありそうな常連客の存在に腰が引ける
なんて思う人は少なくないと思う。
しかし、そんな理由で足を遠ざけるのはもったいない。
是非、一度(人によっては再び)暖簾をくぐって欲しい。
そこが、商売に限らず、何らかの学び舎になることは間違いない。
投稿者 webmaster : 2011年03月04日 10:03