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2011年08月25日
『フレンチテクニック 煮込み料理』 編集担当者より♪
『フレンチテクニック 煮込み料理』
著者:柴田書店編
発行年月:2011年8月27日
判型:B5変 頁数:120頁
まだまだ暑い日々が続きますが、
早いもので8月ももうすぐ終わり。
じっくりと煮込んだ「煮込み料理」が恋しくなる秋が、
すぐそこまでやってきました。
誰でもかならず、おいしい煮込み料理に出会った経験があるはずです。
素材の味や食感を失わないよう、
しっとりとうまく火入れをした肉や魚のおいしさは、言葉では表現できません。
ロティールやグリエが豪快な直球勝負のおいしさとすると、
煮込みは技ありのおいしさです。
みなさんのお店のメニューにぜひ欲しい1品です。
残暑厳しい毎日ですが、まだまだ先の話と思わないで、
秋冬のメニューづくりに、ぜひ役立ててください。
それではシェフが腕をふるってくださった煮込み料理35品のなかから、
いくつかを紹介しましょう。
◎フォン・ド・ヴォー (マノアール・ダスティン)
フォン・ド・ヴォーをとらない店が増えていると聞く。
なるほど、大変な労力と時間、原材料費がかかる。
それでもフォンをとるのは、
フォンがその店の味を決めるからにほかならない。
「素材の持ち味を生かして軽く仕上げるために、
フォンはなるべくクリアな味にしたい」と五十嵐シェフ。
骨と肉を2回に分けて焼き、骨の中の髄を丁寧に取り除く。
所要時間は半日以上。こうしてとったフォン・ド・ヴォーは、
牛だけでなく、豚、うなぎ、すっぽんなどさまざまな煮込みに
旨みの底上げとして使用される。
◎牛ほほ肉の赤ワイン煮 (ボンシュマン)
フォンや水で長時間煮る煮込み料理は、
どうしても味が抜ける。
そのうえ火加減が上手くいかないとぱさついてしまう。
煮込みのコツは、火入れと味つけの加減が
すべてといってもいいかもしれない。
「上手く煮たジュードブフって、ほんとに旨いと思うんですよ」と
花澤シェフ。その言葉通り、しっとりと柔らかく、しかも肉の味と歯ごたえが絶妙に残っている。
歯ごたえといえば、「牛タンのミジョテ」や「野うさぎのシヴェを入れたブーダンノワール」も、しっかりと「素材らしさ」を感じさせてくれるもう一度食べたい1品だ。
◎あわびのフリカッセ ペルノー風味 (ルカンケ)
エスカルゴバターで
フリカッセを仕上げるという新感覚の煮込み。
アワビ特有の歯ごたえ、エスカルゴバターの風味、
どれをとっても日本人が大好きな味。
さわやかなパセリのグリーンは、
地味な煮込みのイメージを一変してくれる。
クリームを使うフリカッセに合うように、
アワビはアワビらしい弾力を残しつつ、
すっとナイフが入るくらいに加減して煮ている。
煮込みは火入れ次第ということを実感する。
ああ、なんて贅沢な料理!
◎粗挽きラムのファルスの玉ネギ詰め (ル・ブルギニオン)
フランス料理に限らないが、煮込みと言えば、
個人的なイメージとしては単色という感じがある。
ブラウン系、ホワイト系、
いずれにせよ色気はあまり伝わってこない。
もちろん、あくまで個人的な感想だが、
器の中に野菜の色はそこそこあるとしても、
やはり単色なのだった。
が、「牛肉の赤ワイン煮込み」とか
「粗挽きラムのファルスの玉ネギ詰め」
「エクルヴィスのムースを詰めたブレス鶏手羽先のフリカッセ」などは、
これを見事に裏切ってくれる。
言ってみれば色とりどりの“お花畑”のような美しさであり、
これが煮込み? というインパクトは、なかなかに新鮮なものである。
煮込みを食べて「おいしい!」という評価はあっても、提供された皿に思わず、
女性客から「わあー、きれい!」の声が出るのは稀有だろう。
「いま結構、はまっています」と菊地美升シェフ、
してやったりの笑顔がこぼれる瞬間だ。
仕立て方としては、煮込みというより炊き合せに近い感覚だろうか。
いやー、美しくおいしくいただきました。
◎ブイヤベース マルセイユ風 (サラマンジェ・ド・イザシ・ワキサカ)
「厳密にしてオーソドックス」に固執する
正統派、脇坂尚シェフ。
たとえば「バヴェットステーキは
一般的にハラミステーキと言われていますが、
ハラミとは違うカイノミという部位です。
間違ってますねー」とか「陶製の器に入れてつくらないと、
テリーヌって呼ばないんですよねー」とシニカルに語尾が伸び、
その微苦笑には毎度、引き込まれたものである。
「日本には鍋料理があるせいでしょうか、ブイヤベースはスープごと提供されますけど、
あれは本来、魚介を食べる料理なんですねー。
まず本体を食べてもらい、しかる後、スープが別皿で供されるんです」。
アレンジはいいけれど、古典の家庭料理、郷土料理という食文化を
理解しておかなければいけませんという考えである。
脇坂シェフの場合は、あくまで“料理道”なのだろう。
ついつい「勉強になりますねー」と口調まで伝染したものだ。
シェフブログ『オヤジのフレンチ』は辛辣だけれど謹厳、
何と言っても骨太だし、男気満載なのだ
(上記バヴェットステーキの話も出てくる。かなりおもしろい)。
“コテコテ古典のフランス家庭料理”を
愛してやまない脇坂シェフの思いが伝わってくる。
こちらも一度は覗いてみたい。
この本は、前号の『フォワグラ料理』とともに、
私たちにとって忘れられない本となりました。
震災直後の東京、なかでも銀座などの繁華街では、しばらくのあいだ、
昼間でもゴーストタウンのように人通りがなく、ちょっと異様な雰囲気がありました。
グラスやワインが破損するといった被害も出ました。
予約はキャンセルが相次ぎ、
通常営業に戻るまでに大変ご苦労をなさったお店も多いのではないでしょうか。
そんな非常時、まだ余震がおさまらぬときに『フォワグラ料理』の校了作業をし、
並行して『煮込み料理』の撮影取材が始まりました。
明日をも知れぬ状況のなか、撮影取材をさせていただいた
五十嵐シェフ、脇坂シェフ、菊地シェフ、花澤シェフ、古屋シェフをはじめ、
各店のスタッフのみなさんに心からお礼を申し上げます。
5ヵ月あまりが過ぎ、やっと本ができましたが、みなさんのご協力がなければ、
この本は生まれてこなかったでしょう!
ありがとうございました。
==== “フレンチテクニック” シリーズ ===========
投稿者 webmaster : 2011年08月25日 10:03