« 2013年05月 | TOPページへ | 2013年07月 »
2013年06月18日
『専門料理2013年7月号』 編集後記より
『専門料理2013年7月号』
発行年月:2013年6月19日
判型:A4変 頁数:156頁
特集:牛肉と仔牛
「外国産牛肉と仔牛の食べ比べ&座談会を実施。その真価を探ります」
「輸入規制緩和によって選択肢が増えた今、個性を見極めることが重要」
特集は「牛肉と仔牛」。今年2月に外国産牛肉の輸入規制が緩和されたことを受けて、急遽組んだ特集です!
表紙の「輸入規制緩和で広がる可能性」って赤字がまぶしいね(笑)。たしかにこれまで日本では手に入らなかった牛肉が使えるようになったのは大きい。「フランス産の仔牛が使えたらなぁ」ってセリフを、ここ10年で何度取材中に聞いたことか。
巻頭企画は「外国産牛肉と仔牛を食べ比べる」。その名の通り、10種類の牛肉と仔牛をシンプルなローストにして食べ比べようという企画です。
高良康之シェフ(銀座レカン)と和知 徹シェフ(マルディグラ)、小池教之シェフ(インカント)、ワインテイスターの大越基裕氏に集まっていただき、それぞれの立場からコメントをいただきました。個体差があるし、輸送方法なども違うから一概には言えないけど、特徴や傾向が見えておもしろかった。
第2企画は、5人のシェフに牛肉の焼き方を学ぶ「産地・品種別 牛肉を焼く、調理する」
三國清三シェフ(オテル・ドゥ・ミクニ)に焼いていただいたのは、輸入解禁になったフランス産シャロレー牛。ブール・ノワゼットで肉を包むようにしてじっくりと火を入れる、古典的なテクニックを見せていただきました。
この春から米国産アンガス牛を使いはじめたのは、橋本直樹シェフ(リストランテ フィオレンツァ)。そのアンガス牛を使ったビステッカは、お客の7割が注文する人気メニューだそう。
「アンガス牛=赤身のおいしい肉」って認識が広まっているんだろうね。赤身の牛肉を好む人も増えてきているし。
一方、開業以来、適度にサシが入った黒毛和種を使い続けているのが濱崎龍一シェフ(リストランテ濱崎)。鹿児島県出身で、小さい頃から黒毛和種を食べていた濱崎シェフの好みは「焼くとフワフワする肉」。1年ほど前から鹿児島県産に特化して使っているそうです。
この他の組合せは、曽村譲司シェフ(ア タ ゴール)×オーストラリア産アンガス牛、堀江純一郎シェフ(リストランテ イ・ルンガ)×高知県産褐毛和種。長年積み上げた理論とテクニックを、詳細なプロセス写真とともに余すところなく紹介しています。
「仔牛を焼く、胸腺肉を調理する」では、岸田周三シェフ(カンテサンス)と小島 景シェフ(ベージュ アラン・デュカス 東京)が登場。岸田シェフはフランス産を、小島シェフは北海道産の仔牛を用いて、肉質に合った「焼き」の技術を見せていただくとともに、胸腺肉を使った料理も作っていただきました。
フランス産仔牛の輸入解禁を待ち焦がれていたという岸田シェフだけど、フランス産だからといって飛びつくのではなく、「品質を見定める目」が重要だと話していたね。輸入の工程で少なからずダメージは受けるだろうから、と。
一方の小島シェフは、ヨーロッパ産の肉質に近いものを国内で探して、7年前にミルクを飲んで育つ北海道産の仔牛に出会ったそう。生産者と密にやり取りできるのが国産の魅力で、今後もこの仔牛を使う予定だそうです。
この他、約20人のシェフに行なったアンケートや、フランスの牛肉生産現場を訪れた現地ルポも掲載。この1冊に牛肉と仔牛の「今」を詰め込みました!
川崎博士と力石先生による新連載もスタートします!
そうそう。この7月号からは新連載が2本スタートしたんだよね。
まずは、昨年1年間「フランス料理の科学」を連載した川崎寛也博士が、科学者の視点から気鋭の料理人と対話する「『おいしさ』をデザインする」。今月と来月は生江史伸シェフ(レフェルヴェソンス)が登場し、これまでにないアユ料理の可能性を探ります。
もう1本は力石寛夫先生による「料理人のための1分間マネジメント」。「ホスピタリティの神様」と呼ばれる力石先生の料理人へのメッセージに注目です。
投稿者 webmaster : 17:14
2013年06月14日
料理本のソムリエ [vol.57]
【 vol.57】
マンガの料理を作ってみたよ
前回ちょっと料理マンガについて書いてはみたものの、やはり絶対的な読書量が足りないことをつくづく感じました。マンガは入れ替わりが激しいうえにアイテムが無数にあるので、新刊棚を眺めていても見落としてしまう作品がいくらでもありそう。しかし、こればっかりは図書館に探しにいくわけもいかず、マンガ喫茶に入るのにはお金がかかる。時間もかかる。そこで柴田書店社員のみなさんに「おすすめの料理マンガは何?」とたずねてみましたよ。社内一斉メールで。普通の会社なら確実に上司にお目玉を食らうところです(笑)。
そしたら営業部のC水谷さんに営業部作成の料理マンガリストを渡されて、びっくり。どんな会社だ。書店の料理書フェアをお手伝いするために、いろいろ情報収集しているんですね。
制作部の井 ̄さんからは料理マンガに関するHPをいくつか教えてもらったのですが、あまりの作品の多さに立ちくらみ。ちなみに井 ̄さんは、よしながふみ押しでした。『きのう何食べた?』はもちろんですが、ほかの作品でもレシピをまじえて料理が効果的に使われているようです。この作品はレンタルコミック店から借りたものの、前に借りた人がヘビースモーカーだったらしく、タバコのにおいがしみついているのに閉口して翌日返したばかりでした。ほかのマンガならまだしも、料理が出てくるシーンでにおいを想像できないってのは困るので。ていうか、やはりお金を払って買わなきゃだめですね。
秀逸だったのは〇田君のレポートです。
<久住昌之の原作の食マンガでいうと、
「かっこいいスキヤキ」 絵・泉晴紀(泉昌之名義) 1983年
「孤独のグルメ」 絵・谷口ジロー 1997年
「花のズボラ飯」 絵・水沢悦子 2011年
と、14年周期で漫画家を変えて、同じようなネタを使いまわしつつヒットを飛ばすというサイクルがあるのに僕は気づきました。次は多分2025年です>
そうかっ、始まりは「夜行」だったか! 『かっこいいスキヤキ』はY田君も推薦していましたが、こちとら谷口ジローの絵のイメージが強くて存在をすっかり忘れていましたよ。14年後の作品はぜひわが社で…。
そういえば、会社の書棚で『花のズボラ飯うんまーいレシピ』を見つけました。マンガを見てりゃ作り方はわかりそうなのに、こんなレシピ本もでているんですねえ。ちょっと屋上屋を架す感じもしなくもないですが、プロセスやできあがりを写真で見たいという需要もあるんでしょう。そもそもこの作品、単行本は2巻まで出ているのに、1巻めはただの『花のズボラ飯』でどこにもナンバリングされていません。版元の秋田書店は当初は2巻も出す予定はなかったのかなあ。だとしたら、主婦の友や宝島社からレシピ本まで出るなんて大出世ですよね。
こうしてみるとマンガの中に出てくる料理を再現するっていうレシピ本もまた、結構出版されているようです。アマゾンの上半期ランキングで、料理本のジャンルに『ONE PIECE PIRATE RECIPES 海の一流料理人 サンジの満腹ごはん』(長いタイトルだ…)ていうのが入っていたので、「え、ワンピースって料理マンガだったの?」(私は連載第1回しか読んだことがないんです)とさっそく本屋に駆け込んだら、作品中に出てくる料理(それもコマのはしっこだったり)をピックアップして再現するというものでした。
これはマンガやアニメの舞台になった土地や建物を観光する“聖地巡礼”っていうのと同じ心理ですね。料理を再現し、味わうことで、しばし作品世界にひたろうというわけです。ただしそれには特殊なスキルがいるので、聖地巡礼のように誰でもできるわけではありません。そこで「ママー、このマンガに出てくる料理作ってー」という声に応える本に市場性があるわけですね。でもこういうのって、お母さんの本気度が問われます。「はいはい、もう、わかったわよー、ほら、これでいいでしょう?」的な再現だと、「ちがわいちがわい、サンジの作る料理はこんなんじゃないやい」とだだをこねられてしまいます。マンガ人気にあやかって気軽に手を出すと、逆に水を差すことになりかねないかも。
そして料理を再現する場合は、前回このブログで書いた話と真逆ですが、あんまり絵がうまくない人の作品を選んだほうがいいのかもしれません。なまじ絵がうまい人の作品だと、せっかく頭の中でいろいろふくらんでいた想像上の料理が、写真をつきつけられることでしぼんでしまうような気もします。そう、マンガがドラマ化されたときにおきる、あのザンネンな感じに似ています。それを防ぐには、原作ファンも納得するような、本気の再現料理であってほしいものです。
このタイプの本には『まんが・アニメ・絵本に出てきた「あの料理」と「あのお菓子」を作れる夢のキッチン』(これまた長いタイトルだ…)や『マンガ食堂』があります。前者のマンガだけではなく絵本も・・・という戦略は、なかなか商売のツボを心得ていますね。もっとも絵本の料理ってオムライスだったり目玉焼きだったりで、再現しがいがありませんが・・・。後者は元はブログだったものを単行本化したもので、素人が純粋な探究心からできるだけ作品に忠実に再現したものなので、あなどれません。
本気度からいうと、『まんがキッチン』は出色でしょう。作り手は料理研究家ですから、レシピも本気なら写真の撮り方も本気なのは当然。それでいて全篇作品愛がだだもれです(笑)。もっとも再現というより、紹介しているのは作品からイメージして作った菓子なので、読者によって評価が分かれるかもしれませんが、そのへんのニュアンスはちょっとわかりません。なにせ少女マンガ主体なため、どれも有名な作品ではありますが、この本で取り上げられているマンガのうち私が実際に読んだことのあるのは3作しかなかったもので…。と思っていたら、会社の浅Eさんから紙袋に入った『のだめカンタービレ』お試しセットというのを渡されました。
ほかには『空想お料理読本』てのもありました。著者の柳田理科雄氏の作風から想像するに、いろんな料理マンガのレシピを検証して、この料理は科学的にまちがっているとか、このコマの通りに作ると20人前の分量になるとか、突っ込みを入れまくる本なのかなあと思ったら、ただのレシピ再現本でした。ケンタロウ氏とのぬるーい対談が続きまして、「人気作品だからなんとなく再現してみたけど、どう?」っていう空気に覆われています。そもそも柳田氏の一連の著作は、どれもこれも作品に対するリスペクトが感じられなくて、単なる居酒屋トークにしか思えないのですが、これで子供の理科離れが防げると本気で思っているのかしら?
それにしてもこの本といい『まんが・アニメ・絵本に出てきた「あの料理」と「あのお菓子」を作れる夢のキッチン』といい、どうして『はじめ人間ギャートルズ』の骨付き肉は人気なんですかねえ。あれを見てあこがれたっていう話はよく聞きますが、私には単なる符号にしか見えなくて、おいしそう、食べてみたいとは思わなかったなあ。ちなみに私がマンガで見て心底食べてみたいと思ったのは、学研の『発明・発見のひみつ』(子供を理科好きにするならこっちでしょう)に出てくるニコラ・アペールが発明した豆とベーコン(だったかな?)の瓶詰めが最初でした。変だって? なんだか西洋料理っぽくてあこがれたんだよう。
さて。せっかくなのでこれらの再現レシピ本の中からいっちょう作ってみようか、と思ったのですが、どうも読んだことのない作品のものはおいしそうでもあんまり作る気になれません。そうなんですよ、再現本というのはあくまでも作品世界に浸るのが目的なんですから。じゃあ逆に、「こんな料理が出てくるなら、この作品を読んでみようか」という気持ちになるかというと、それはよほどの料理好きじゃなければありえないでしょう。基本的にこのジャンルはマンガの人気にのっかった、ファンブックなんですね。
いろいろ考えた挙句、今回は、五十嵐大介作『リトル・フォレスト』から。制作部の井 ̄さんもお勧めの作品です。ただし、『マンガ食堂』に載っていたレシピは「ある日の朝ごはん」でしたので、ブログの記事のほうからばっけみそ(ふきのとう味噌)を再現することにしました。だって料理を作るのは、いつも夜中に一杯飲るためだし。ちょうどデザイナーのT島さんからフキノトウだのワラビだのフキウドだの、新潟の山菜をもらったところだし。
ブログのほうは手順だけで、分量のような無粋なものはぜんぜん書いてありません。普通の読者なら愚痴のひとつも言うところでしょうけれども、こちとら慣れているのでびくともしません。「味つけ(日本料理の料理人さんは“あたり”といいます)は目分量ではなくて、舌分量(料理人さんはこれを“口あたり”といいます。口に入れた時の触感とは違いますからね)でってね。へへ、プロっぽいね…」とか調子にのっていたら、酔っ払ってたもんでミリンと酢を間違えました。がーん。しかしここで少しもあわてず、そのまま調理続行です。だってフキノトウって酢味噌和えにしたりもするじゃない。
できあがったのがこの写真。食べてみたら意外といけました。そのままでも、キュウリにつけてもよさそうです。え、負け惜しみ? そんなことないって。調味料を取り違えたりした日には、マンガですと食べたとたんに口から煙が出てばったり倒れたりするもんですが、現実なんてこんなもんですよ。
投稿者 webmaster : 15:03
2013年06月10日
『バル&居酒屋メニューブック』
『バル&居酒屋メニューブック』
柴田書店MOOK
発行年月:2013年6月11日
判型:A4変 頁数:136頁
表紙にも使わせていただいた、この一皿。
東京・麹町にある注目のスペインバル
「春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)」さんの
『マグロの生ハムとアボカドのサラダ仕立て』です。
マグロの生ハム(ジャーキー風のもの)は
チラホラ見えますが、アボカド? どこでしょうか?
そうなんです。 そこがポイント。
実は、たっぷりの葉野菜の下に、
アボカドのアイスが隠れているのです。
2、3人で同店に入り、このメニューをオーダーしたとしましょう。
キーンとよく冷えた皿に、こんもりと葉野菜が盛りつけられたサラダと、
取り分け用の小皿が運ばれてきます。
最初にみずみずしい葉野菜を取り分けると、マグロの生ハムが現れます。
塩味のある生ハムとこの葉野菜だけでも充分においしいサラダですが、
葉野菜をとり終えたところで、色鮮やかなグリーンのペーストが
皿の表一面に塗られていることに気づきます。
そう、これがアボカドのアイスです。
皿が冷えているので、アイスも冷たい状態を保っています。
数人でサラダを取り分けると、自然とこのアイスが、
葉野菜の上にトッピングされる形になるわけです。
アボカドに、ほんの少しの練乳と生クリームを加えた
絶妙な口あたりのこのアイスは、そのままはもちろん、
ソースのように葉野菜と和えてもおいしくいただけます。
アボカドの固形分がメインなので、
たとえ溶けたとしても液体になることはありません。
もちろん、取り分けなどせずに写真の盛りつけのまま、
さっぱりとした葉野菜から食べ進めて、
最後に濃厚なアイスにたどり着いてもいいのです。
お客さんが受けるサプライズ感と、さまざまに異なる食感の組み合わせ、
そしてメイン食材のアボカドをアイスにしてしまうという大胆な発想。
春風駘蕩さん、さすがですね。
このように繁盛店のメニューには、
緻密な構成力とともに、お客さんを喜ばせるヒントが盛りだくさんです。
続きはぜひ本誌でご覧いただければ幸いです。
投稿者 webmaster : 16:16