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2013年06月14日

料理本のソムリエ [vol.57]

【 vol.57】

マンガの料理を作ってみたよ

 前回ちょっと料理マンガについて書いてはみたものの、やはり絶対的な読書量が足りないことをつくづく感じました。マンガは入れ替わりが激しいうえにアイテムが無数にあるので、新刊棚を眺めていても見落としてしまう作品がいくらでもありそう。しかし、こればっかりは図書館に探しにいくわけもいかず、マンガ喫茶に入るのにはお金がかかる。時間もかかる。そこで柴田書店社員のみなさんに「おすすめの料理マンガは何?」とたずねてみましたよ。社内一斉メールで。普通の会社なら確実に上司にお目玉を食らうところです(笑)。

 そしたら営業部のC水谷さんに営業部作成の料理マンガリストを渡されて、びっくり。どんな会社だ。書店の料理書フェアをお手伝いするために、いろいろ情報収集しているんですね。

 制作部の井 ̄さんからは料理マンガに関するHPをいくつか教えてもらったのですが、あまりの作品の多さに立ちくらみ。ちなみに井 ̄さんは、よしながふみ押しでした。『きのう何食べた?』はもちろんですが、ほかの作品でもレシピをまじえて料理が効果的に使われているようです。この作品はレンタルコミック店から借りたものの、前に借りた人がヘビースモーカーだったらしく、タバコのにおいがしみついているのに閉口して翌日返したばかりでした。ほかのマンガならまだしも、料理が出てくるシーンでにおいを想像できないってのは困るので。ていうか、やはりお金を払って買わなきゃだめですね。

 秀逸だったのは〇田君のレポートです。
<久住昌之の原作の食マンガでいうと、

「かっこいいスキヤキ」 絵・泉晴紀(泉昌之名義) 1983年
「孤独のグルメ」 絵・谷口ジロー 1997年
「花のズボラ飯」 絵・水沢悦子 2011年

と、14年周期で漫画家を変えて、同じようなネタを使いまわしつつヒットを飛ばすというサイクルがあるのに僕は気づきました。次は多分2025年です>

 そうかっ、始まりは「夜行」だったか! 『かっこいいスキヤキ』はY田君も推薦していましたが、こちとら谷口ジローの絵のイメージが強くて存在をすっかり忘れていましたよ。14年後の作品はぜひわが社で…。

 そういえば、会社の書棚で『花のズボラ飯うんまーいレシピ』を見つけました。マンガを見てりゃ作り方はわかりそうなのに、こんなレシピ本もでているんですねえ。ちょっと屋上屋を架す感じもしなくもないですが、プロセスやできあがりを写真で見たいという需要もあるんでしょう。そもそもこの作品、単行本は2巻まで出ているのに、1巻めはただの『花のズボラ飯』でどこにもナンバリングされていません。版元の秋田書店は当初は2巻も出す予定はなかったのかなあ。だとしたら、主婦の友や宝島社からレシピ本まで出るなんて大出世ですよね。

 こうしてみるとマンガの中に出てくる料理を再現するっていうレシピ本もまた、結構出版されているようです。アマゾンの上半期ランキングで、料理本のジャンルに『ONE PIECE PIRATE RECIPES 海の一流料理人 サンジの満腹ごはん』(長いタイトルだ…)ていうのが入っていたので、「え、ワンピースって料理マンガだったの?」(私は連載第1回しか読んだことがないんです)とさっそく本屋に駆け込んだら、作品中に出てくる料理(それもコマのはしっこだったり)をピックアップして再現するというものでした。

 これはマンガやアニメの舞台になった土地や建物を観光する“聖地巡礼”っていうのと同じ心理ですね。料理を再現し、味わうことで、しばし作品世界にひたろうというわけです。ただしそれには特殊なスキルがいるので、聖地巡礼のように誰でもできるわけではありません。そこで「ママー、このマンガに出てくる料理作ってー」という声に応える本に市場性があるわけですね。でもこういうのって、お母さんの本気度が問われます。「はいはい、もう、わかったわよー、ほら、これでいいでしょう?」的な再現だと、「ちがわいちがわい、サンジの作る料理はこんなんじゃないやい」とだだをこねられてしまいます。マンガ人気にあやかって気軽に手を出すと、逆に水を差すことになりかねないかも。

 そして料理を再現する場合は、前回このブログで書いた話と真逆ですが、あんまり絵がうまくない人の作品を選んだほうがいいのかもしれません。なまじ絵がうまい人の作品だと、せっかく頭の中でいろいろふくらんでいた想像上の料理が、写真をつきつけられることでしぼんでしまうような気もします。そう、マンガがドラマ化されたときにおきる、あのザンネンな感じに似ています。それを防ぐには、原作ファンも納得するような、本気の再現料理であってほしいものです。

 このタイプの本には『まんが・アニメ・絵本に出てきた「あの料理」と「あのお菓子」を作れる夢のキッチン』(これまた長いタイトルだ…)や『マンガ食堂』があります。前者のマンガだけではなく絵本も・・・という戦略は、なかなか商売のツボを心得ていますね。もっとも絵本の料理ってオムライスだったり目玉焼きだったりで、再現しがいがありませんが・・・。後者は元はブログだったものを単行本化したもので、素人が純粋な探究心からできるだけ作品に忠実に再現したものなので、あなどれません。

nodame.jpg 本気度からいうと、『まんがキッチン』は出色でしょう。作り手は料理研究家ですから、レシピも本気なら写真の撮り方も本気なのは当然。それでいて全篇作品愛がだだもれです(笑)。もっとも再現というより、紹介しているのは作品からイメージして作った菓子なので、読者によって評価が分かれるかもしれませんが、そのへんのニュアンスはちょっとわかりません。なにせ少女マンガ主体なため、どれも有名な作品ではありますが、この本で取り上げられているマンガのうち私が実際に読んだことのあるのは3作しかなかったもので…。と思っていたら、会社の浅Eさんから紙袋に入った『のだめカンタービレ』お試しセットというのを渡されました。

 ほかには『空想お料理読本』てのもありました。著者の柳田理科雄氏の作風から想像するに、いろんな料理マンガのレシピを検証して、この料理は科学的にまちがっているとか、このコマの通りに作ると20人前の分量になるとか、突っ込みを入れまくる本なのかなあと思ったら、ただのレシピ再現本でした。ケンタロウ氏とのぬるーい対談が続きまして、「人気作品だからなんとなく再現してみたけど、どう?」っていう空気に覆われています。そもそも柳田氏の一連の著作は、どれもこれも作品に対するリスペクトが感じられなくて、単なる居酒屋トークにしか思えないのですが、これで子供の理科離れが防げると本気で思っているのかしら?

 それにしてもこの本といい『まんが・アニメ・絵本に出てきた「あの料理」と「あのお菓子」を作れる夢のキッチン』といい、どうして『はじめ人間ギャートルズ』の骨付き肉は人気なんですかねえ。あれを見てあこがれたっていう話はよく聞きますが、私には単なる符号にしか見えなくて、おいしそう、食べてみたいとは思わなかったなあ。ちなみに私がマンガで見て心底食べてみたいと思ったのは、学研の『発明・発見のひみつ』(子供を理科好きにするならこっちでしょう)に出てくるニコラ・アペールが発明した豆とベーコン(だったかな?)の瓶詰めが最初でした。変だって? なんだか西洋料理っぽくてあこがれたんだよう。

 さて。せっかくなのでこれらの再現レシピ本の中からいっちょう作ってみようか、と思ったのですが、どうも読んだことのない作品のものはおいしそうでもあんまり作る気になれません。そうなんですよ、再現本というのはあくまでも作品世界に浸るのが目的なんですから。じゃあ逆に、「こんな料理が出てくるなら、この作品を読んでみようか」という気持ちになるかというと、それはよほどの料理好きじゃなければありえないでしょう。基本的にこのジャンルはマンガの人気にのっかった、ファンブックなんですね。

fukinoto.jpg いろいろ考えた挙句、今回は、五十嵐大介作『リトル・フォレスト』から。制作部の井 ̄さんもお勧めの作品です。ただし、『マンガ食堂』に載っていたレシピは「ある日の朝ごはん」でしたので、ブログの記事のほうからばっけみそ(ふきのとう味噌)を再現することにしました。だって料理を作るのは、いつも夜中に一杯飲るためだし。ちょうどデザイナーのT島さんからフキノトウだのワラビだのフキウドだの、新潟の山菜をもらったところだし。

 ブログのほうは手順だけで、分量のような無粋なものはぜんぜん書いてありません。普通の読者なら愚痴のひとつも言うところでしょうけれども、こちとら慣れているのでびくともしません。「味つけ(日本料理の料理人さんは“あたり”といいます)は目分量ではなくて、舌分量(料理人さんはこれを“口あたり”といいます。口に入れた時の触感とは違いますからね)でってね。へへ、プロっぽいね…」とか調子にのっていたら、酔っ払ってたもんでミリンと酢を間違えました。がーん。しかしここで少しもあわてず、そのまま調理続行です。だってフキノトウって酢味噌和えにしたりもするじゃない。

 できあがったのがこの写真。食べてみたら意外といけました。そのままでも、キュウリにつけてもよさそうです。え、負け惜しみ? そんなことないって。調味料を取り違えたりした日には、マンガですと食べたとたんに口から煙が出てばったり倒れたりするもんですが、現実なんてこんなもんですよ。


  
  
  

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投稿者 webmaster : 2013年06月14日 15:03