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2013年07月18日
『専門料理2013年8月号』 編集後記より
『専門料理2013年8月号』
発行年月:2013年7月19日
判型:A4変 頁数:164頁
特集:パスタ
「ベテランシェフのパスタ観と若手イタリア料理人へのメッセージは必読です」
「手打ちと乾麺、ロングとショートに分け、気鋭シェフによるパスタ料理を紹介」
イタリア料理に携わるみなさま、お待たせしました。毎年恒例、年に一度のパスタ特集です。今回は、「ベテランから若手へのメッセージ」と「気鋭シェフの創意に満ちた料理集」の2本柱で誌面を構成しました。
巻頭インタビュー「私が伝えたいパスタ 次世代へのメッセージ」では、ともにパスタ料理に定評のあるベテランシェフ2人にお話をうかがいました。
まずは「自分はおいしいパスタを作りたくて、料理を作っているようなもの」と話す片岡 護シェフ(リストランテ アルポルト)。独立して30年が経ち、「それぞれの年代で年齢に応じた料理を表現していけるのが料理人の醍醐味」と感じているそう。
若い時はパワーと冒険心、経験を積んでからは熟練した技術が、料理人の大きな武器になるとのことでした。「今の若い料理人はもっと乾麺を食べ込むべき」とも話していたね。
一方の佐竹 弘シェフ(リストランテ レーネア)はパスタをはじめ、食材全般に対する料理人としての姿勢について、熱い言葉で話してくださいました。
「パスタを自分の思い通りにするのではなく、パスタの声に耳を傾け、パスタに自分を合わせる」って。今回紹介いただいた「真鯵のスパゲッティ」もシンプルの極み。技術や経験を積み重ねた佐竹シェフならではの圧倒的な存在感を放つパスタ料理でした。
「自分にとってパスタは、コースの流れの核になる料理」(片岡氏)、「コースの主役はあくまでセコンドピアットで、パスタでお客さまの心とお腹を100%充たしてはいけない」(佐竹氏)と、コース内でのパスタの位置づけが両者で微妙に違うのも興味深かったです。
メイン企画は「種類別 パスタ料理集」。7人の気鋭シェフによるパスタ料理を手打ちと乾麺、さらにロングとショートに分けてズラリと並べました。
今回は麺自体も撮影して、手打ちなら分量と作り方、乾麺ならその来歴や特徴なんかを掲載したんだけど、個性的な麺も多かったね。
渡辺 明シェフ(イル・リフージョ・ハヤマ)が使った「フィリンデゥ」は、手でごく細くのばした麺を網目のように重ねたサルデーニャの乾燥パスタ。非常に稀少で手に入りにくいため、渡辺シェフは現地の修業先の店から送ってもらっているそう。
濱本直希シェフ(フェリチェリーナ)の手打ちパスタ「トロフィエ」は、何と米粉入り! 白玉団子風のモチモチした触感で人気があるみたい。麺一つとっても、現地の品を再現するか、日本人好みにアレンジするか、料理人のアプローチが見てとれるね。
第2特集は「チーズ活用法」
第2特集は「チーズ」。食後のチーズはレストランらしい時間を提供するための重要なアイテムだけど、相応の知識や管理する手間、そしてお客さんに注文してもらうためのサービスが必要。それゆえ扱いを断念する店も多いと思う。
そこでテーマは「チーズをもっとレストランに!」。荒井 昇シェフ(オマージュ)と小笠原圭介シェフ(エクイリブリオ)による「チーズで料理を作る」では、料理にチーズを取り入れるための活用術を紹介します。
この他、チーズの専門家とサービス人に、「チーズの扱い方や保管法」「プラトー作り」「注文をとるためのサービス」といった切り口で、じっくりと話をうかがいました。
そうそう、先月スタートした川崎寛也博士の連載「おいしさをデザインする」も盛り上がったね。生江史伸シェフ(レフェルヴェソンス)との後編となる今回は、前回を踏まえてより進化したアユ料理が登場! この間、川崎博士と生江シェフはフェイスブックでやりとりし、ブラッシュアップを重ねたそう。
「ヘテロ感」「アイス・フィルトレーション」なんて言葉も出てきたけど、見どころはドライヤーを使った加熱。 はたして成功したのか? 続きは誌面で!
投稿者 webmaster : 16:06
2013年07月03日
『モンサンクレール軽やかさの秘密』
『モンサンクレール軽やかさの秘密』
著者:辻口博啓
発行年月:2013年6月29日
判型:B5 頁数:168頁
「そうなんです、わたし、あまり甘いものをふだんは食べないんです」
営業のS谷が言う。
先日、自由が丘モンサンクレールにこっそり食べに行ってきたらしい。
「でも、3つ食べても全然! 苦しくなくて。
あれ、もう1個ぐらい食べようかなと思ってしまって!」
やや興奮した口調で、目を見開いて、続ける。
「あぁ、これが “辻口マジック” なのかと」
自由が丘モンサンクレールの菓子は、後味が軽い。
甘いのだが、食べるとどこへいってしまったのかと思うぐらいに、すっと消えていく。軽やかさは、辻口シェフがこだわっている点だ。もうひとつ食べたい、もう一度食べたいと思わせるために、1ミリ単位、0.1グラム単位で菓子を設計している。だから、リピート客が多く、店内のサロンは2個、3個を一人で食べるお客さまでいっぱいだ。
辻口さんはテレビや雑誌に引っ張りだこの人気パティシエだ。
独特な金髪、軽妙なトーク、多数の著書も出しながら、実は、プロ向けの技術書をつくるのは、本書「軽やかさの秘密」が初めてのことだ。
15年も続く繁盛店モンサンクレールは彼の基幹店であり原点だけに、そのレシピを公開することには、なかなか勇気が要ったという。
「セラヴィ…も出すのですか」
めずらしくためらう辻口シェフに担当編集者は、ただ頷く。
ホワイトチョコレートのアントルメ、セラヴィは辻口シェフの代表作品。しばらく無言ののち、辻口シェフは意を決して立ちあがった。
「わかりました。次回撮ってください」
撮影はいつも少人数だ。辻口シェフ、助手の横田さん、大山カメラマン、編集担当の4名。菓子づくりの工程は辻口さん本人の手でなければならないため、小さな作業からすべてシェフ自身が行なう。超多忙なスケジュールをぬって、1年以上の密着撮影が行なわれた。
その途中、テレビ取材が入って、本書の取材の様子が取材されるということがあった(「ソロモン流」)。後日、番組ディレクター氏が、別の時に辻口シェフに質問するシーンが放送された。
ディレクター氏「なぜプロ向けに秘密のレシピを公開してしまうのですか?企業秘密なのでは?」
辻口シェフ 「いままでのレシピは過去の自分。 それを超えないと未来の自分になれない」
というような(ディテールは違うかもしれない)やりとりがあり、編集担当は思わず「あっ」と言った。秘蔵レシピを本に公開するということに、いつの間にかシェフはご自身の答えを見つけていた。自分がつくり出した菓子を世に出し、残すことで、いつかそれが世界の定番になる可能性が生まれる。オペラもシブーストも、そうして現代に残った。いつの世にかセラヴィが、世界に羽ばたく日も、そんなに遠くないのかもしれない。
投稿者 webmaster : 16:45