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2015年02月23日
『食堂業の店長塾』
『食堂業の店長塾』
著者:井上恵次
発行年月:2015年2月23日
判型:四六 頁数:256頁
『月刊食堂』誌上で大好評を得た連載 「井上恵次の店長塾」が1冊の本になりました。
著者の井上恵次先生は外食業界を代表するコンサルタントですが、それ以上にわれわれ編集者にとっては“偉大な先輩”でもあります。
1960年代から70年代にかけての、日本の外食産業の黎明期に柴田書店に在籍。『月刊食堂』編集長や編集部長を歴任し、さまざまな出版物を世に送り出しました。柴田書店の歴代No.1ベストセラーである 『負けてたまるか!』 (松平康隆著・1972年)も、大学時代にバレーボール部で活躍した井上先生の人脈によって実現したものです。
柴田書店を退社後は、外食大手のロイヤル(株)で「ロイヤルホスト」の全国展開を指揮。後に副社長を務め、ハンバーガーチェーン「ベッカーズ」を自ら立ち上げました。
まさしく日本の外食産業史に名を刻む一人ですが、コンサルタントとしての井上先生は徹底して“現場主義”。常に全国を飛び回り、店長やパート・アルバイトとコミュニケーションをとりながら指導を続けています。だからこそ、その言葉は説得力を持つのです。
井上先生には柴田書店の月刊誌を毎月お送りしていて、書籍の新刊も折に触れてお届けし感想をいただいていますが、「これはいい!」と言っていただいた本や特集号は必ず売れます。これも井上先生が常に現場目線を持っておられることの証拠でしょう。
ロングセラーである 『食堂業 店長の仕事』 に続く井上先生の“店長本”を形にできたことは、編集者としてこのうえない喜びです。
*** 井上恵次氏 著書本 *******************************
発行年月:1993年9月30日
判型:四六変 頁数:262頁
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投稿者 webmaster : 09:58
2015年02月20日
パティスリーのための 『バター不足対応レシピ』
パティスリーのための 『バター不足対応レシピ』
著者:菊地賢一
発行年月:2015年2月23日
判型:B5 頁数:96頁
本書をつくるきっかけになったのは、著者の菊地賢一シェフが太白胡麻油のメーカーからケーキのレシピ提案を依頼されたことでした。
折しも2014年のクリスマスシーズンに向けてバター不足が深刻化していた状況下。
太白胡麻油にはじまり、ナッツ系のオイルやココナッツオイル、米油といった植物性オイルのそれぞれの特徴を生かしたケーキが生まれました。
ジェノワーズとシフォンの中間のような「スポンジ生地」は、既存の配合ではなかったみずみずしさとしっかりした骨組みを併せ持つ生地に。バターと植物性オイルを両方使う「サブレ生地」はサクサクとしたとても軽い口当たりに??といった具合に、どのレシピにも植物性オイルをバターの代替として使うメリットが表われています。
著者の店「レザネフォール」でも本書で紹介したスポンジ生地でつくるロールケーキ(バターの配合なし、太白胡麻油100%でつくります!)がヒット商品となり、ショーケースに並ぶフランス菓子にひけをとることなく輝いています。
ケーキは複数のパーツを組み合わせ、構築して完成するもの。
だからこそ一部のパーツで配合する油脂をバターから植物性オイルに代替しても、“フランス菓子”としての味のトーンを守ることが可能なのです。
投稿者 webmaster : 20:29
2015年02月16日
料理本のソムリエ [vol.66]
【 vol.66】
江戸時代のおうちレシピにみる、
もちの保存法と砧大根
皆さん、世界無形文化遺産継承の大任はつつがなく終えられましたでしょうか。私は今年の正月は頑張ってもちを搗いてみましたよ。
毎年暮れには農家の叔母からのしもちが送られてきていたのですが、年が年でだんだんつらくなっているらしく、今年はもち米だけが届きまして。こんなにもち米ばかりあっても赤飯も粽もしばらく作ってないしなあ、もちなんて杵と臼がなければ搗けないし…、と思っていたのですが、なんとすりこぎとすり鉢で代用できるという情報をネットで見つけました。
でも、いざすり鉢を前にして、躊躇することしばし。なんだか手元がすべって突き割ってしまいそう。だいいち、こんなに溝だらけで張り付かないの? ボウルを臼代わりにするという手もあるらしいのですが、すぐに冷めそうですし、軽くて安定が悪そう…。
そこではたと気づきました。もちはもち屋…じゃなかった、もちには炊飯器では? 炊飯器の内釜なら、形といい、張り付きづらい材質といい、重さといい、最適じゃあありませんか。ずっと前に壊れた炊飯器の内釜だけをとっといてあるしね。早速トライ!
前日から水に浸しておいたもち米を蒸し器で蒸しまして、内釜に移して、いざスタート。えぐり込むように突くべし!! 突くべし!! 突くべし! 突くべし、突く、べし…、突…く……べ……し………。 ふー、すりこぎが細いので、なかなかもち米がつぶれませんねえ。息が上がって、途中でへとへとであります。ビール瓶でやればよかったかな?
ボウルほど薄くはないにせよ、しょせん内釜も金属ですから、搗き上がるころにはもうすっかり冷めておりまして、熱くてちぎるのが大変どころか固くなってきていてひと苦労。ちょっと粒々感もあります。それでもどうにかこうにか形になりました。めでたし、めでたし。
このもちを搗く道具ですが、すりこぎみたいに縦長な専用の道具がちゃんとありまして、「竪杵(たてぎね)」といいます。木の棒の中ほどがくびれていて握りやすくなってるんですが、ご存知かなあ。ほれ、月に住むウサギがもち搗きに使っているやつですよ。月の模様はウサギが前かがみになってごそごそ何かしている感じで、贔屓目に見ても杵を持っている姿とするには無理がありそうですが、「ツキでもちツキ」っていう親父ギャクを狙ったのかしら。
いっぽう普通もち搗きに使われるのは横杵(よこぎね)です。これってトンカチや一寸法師が使う打出の小槌の大将みたいな形ですが、槌はどっち側からも叩けるリバーシブルな構造なのに対して、横杵は頭がでかくて一方向にしか搗けません。重いのをどーんと降りおろす横杵のパワーには、竪杵はかないません。
ところで竪杵を半分に切ったような、マスカラみたいな形をしている道具がありまして、こっちは「横槌(よこづち)」といいます。ややこしいね。横槌は洗練された形の棍棒とでも申しますか、まあ早い話が叩くのに使います。代表的なのは砧(きぬた)ですね。
「砧」という言葉は「衣板(きぬいた)」からきていまして、本来は洗濯して糊をつけた布を叩いてしわをとり柔らかくする、今のアイロンがけみたいな作業のことをいいます。麻や木綿の場合はたたんで板(打盤といいます)の上でコンコンやる作業だったのですが、絹のような柔らかい布は横にわたした棒にくるくる巻きつけて、外側を布で包んで回転させながら叩きます。おかげでなのか知りませんが、板よりも叩くほうの横槌のほうがクローズアップされまして、砧の作業に使う横槌も砧と呼ばれるようになっちゃいました。骨董に「砧青磁」なんてのがありますが、この種の青磁に多く見られる花活けの形が横槌に似ていることからきているのでしょう(叩く音のように、世に響き渡る名品だから砧という、なんて説もありますが、こじつけっぽいよねえ)。ちなみに中国語では砧は板のほうを指しまして、「鉄砧」は鍛冶屋さんが使う金床、「砧板」はまな板のことだったりします。
日本料理の世界では、かつらむきにしたダイコンやカブをくるくる巻く「砧巻き」という言葉がありますね。スモークサーモンや柿を芯にした紅白の砧巻きはおせちに詰められたりもするので、お正月に食べたばかりの方もいらっしゃるのでは? 当て字で「サーモン絹多」「柿絹田」なんて書く店も多いこともあって、もはや何のことなのかわからなくなってきていますが…。これって横槌の形から来ているのかな? それともくるくる巻いた絹のほうから来ているのかな?
川上行藏先生の『食生活語彙五種便覧』を調べてみますと、「きぬた牛蒡」という項目に「きぬたは切り方の名。この料理言葉は『料理歌仙の組糸』に始まる」とありました。確かにゴボウは薄く切ってくるくる巻けないもの、素材の切り方かもしれませんねえ。横槌の形にむいたのかしら?
「始まる」とあるからには、ほかにも素材をきぬたに切った例が江戸時代の料理書にあるのかと探してみたのですが、今のところ見つかっておりません。それじゃあかつらむきのダイコンやカブで巻いた料理のほうはどうだろうと探したところ、「きぬまき」となってました。『精進献立集』ではダイコンやカブの薄く切ったものを酢に浸けて(こうするとしんなりして巻きやすくなります)、細く巻いて向付に添えてます。これだとただの巻きものなんですが、「きぬまきかぶら」では芯にワサビを入れてました。
ちょっと砧巻きから遠いですねえ。『精進献立集』にはこのほか、取肴に「ぎおんぼうだいこんまき」というのがでてきまして、これがかなり現代の砧巻きっぽい。祇園坊というのは柿の品種のことで、これをへいで二つに切ります。ダイコンはかつらむきじゃなくて厚く紙のごとくむき、やっぱり酢に浸けて、柿を巻き、しばらく押してから小口切りにします。柿なますの応用形ですよね。
一方小学館の『日本国語大辞典』の第2版には、「きぬただいこん」が登場します。
<(その形が砧に布を巻いたのに似ているところから、戯作者初代立川焉馬の命名したもの)五 ― 六センチメートルの厚さに切った大根を、かつらむきにし、生姜のせんぎりを巻いて味噌づけにしたもの。生姜のかわりに輪唐辛子を用いたものを紅葉巻(もみじまき)という>
なんだかとっても具体的。そのくせ、毎度のことながら出典が書いてありません。勘弁してよー。
探したら、これは平亭銀鶏の『家内の花』(1833年刊)が元でした。幸いにも東京家政学院大学(家政大とは別だから注意してね)の昨年の紀要に大江文庫所蔵本の翻刻がありまして、ネット上でも見ることができます。
http://www.kasei-gakuin.ac.jp/library/kiyou/zenbun/54-15.pdf
ちなみに大江文庫は慶応の石泰文庫(vol19参照)と並んで、江戸の料理本を多く所蔵することで知られておりまして、同大学の同窓会グループによって手書き翻刻化された150種350余冊が、同大の図書館に並んでいるそうです。
さてこの論文の解題によりますと、銀鶏は天保の大飢饉のときに立て続けに倹約生活本を出しており、『家内の花』もそのひとつ。サブタイトルは「たくはえでんじゆ(貯え伝授)」でして、江戸の著名人の家に伝わる(ときどき他の本からの引用や無名の人のレシピも混じってますが)各種常備菜を掲載した本でした。いわば江戸時代のおうちレシピ。ほかには山東京伝や式亭三馬、唐衣橘州なんかの秘伝料理も登場いたします。
さて、例の砧大根のレシピ、ところどころ句読点を足してご紹介しましょう。
<大根のふときを皮のまゝ木口より薄くきり、日にいだして干上(ほしあげ)、からからとなりたるとき、一枚づゝのばして其中へ生姜を千にうちたるをいれて、木口よりいかにもかたく、くるくると巻きてふた物へだんだんにならべてつめ、醤油味淋をとうぶん、酢を其半分合しざつと煮えたてゝ、大根の見えぬ程にかけて貯ふべし。生姜のうちへとうがらしを半分いれたるを紅葉巻といへるよし。口取にいたつて奇也>
皮つきのまま薄く切り、干してからからにしたダイコンで作るのでしたら確かに日持ちしそう。漬け床も醤油1、ミリン1、酢0.5の割合ですから、ぜんぜん味噌漬けじゃありません。日本国語大辞典のものはかなりアレンジされていますねえ。どこから引用したんだろう?
ちなみに銀鶏先生、他人のレシピばかりを集めているわけではなく、この本の筆頭には自身の工夫として、「切餅の貯へ様」というのを載せております。
<酒のあき樽を調へ、鏡の板へ五寸四方の穴をきりあけ、穴の四方を二寸ほどはなして、厚紙にて六寸ほどの丈に袋のなりにこしらへ其内より手を入れて餠をいだし、其跡をしつかりと蓋をして、四方より袋にてふたのうへをたゝみこみ、其上へ手ごろの石をのせおくなり。又樽の外をば、ふたも底もあつがみにて水張に三遍ほどはるべし>
この文からだとちょっと厚紙の袋の仕様がわからないのですが、そこはちゃんとイラストがついております。樽の上に空けた穴にティッシュボックスみたいな箱がセットされておりまして、そこから手を突っ込むようになってました。この貯蔵法なら正月搗いたもちも4月までカビないとか。
銀鶏先生の考えではもちにカビが生えたり酸っぱくなるのは風にあたるからであって、酒樽を密閉したくらいでは空気が入るのは完全に防げず、梅雨は越せないそうです。けれども錫の壺とフラスコに浅草海苔を貯えてみたところ、香気も味も変わらなかったとも述べておりまして、実に科学的かつ実証的な姿勢です。たいしたものです。
さて、そのほか江戸の料理本の献立中に「砧巻き」を見つけたのですが、どれもお菓子でした。これも日本国語大辞典によりますと「小麦粉に砂糖を入れて水でこね、薄く焼いて巻いた菓子」のことだそうです。これだとなんだか葛焼きみたいですね。幕臣にして維新後は出版人になった中根香亭の『酔迷余録』によりますと、「砧巻きは皮葛製にてもあらんか、いと薄く弱かにて、羽二重の如く、是をもて餡を巻きたれば、其の名其の物によく称(かな)へり」とありまして、餡を入れるのもOKのようです。
実際京都の長久堂では「きぬた」という菓子を売ってらっしゃいますが、こちらは羊羹の求肥巻きで、芯の羊羹は赤くて今の料理の砧巻きとよく似ております。嘉永六(1853)年に考案し、パリ万博にも出品したそうで…。
ああああ、すみません。もちどころか、いよいよ求肥巻きになっちゃったよ。杵と槌の話をするはずだったのに…。まだまだ続きます。
投稿者 webmaster : 13:41