「常備菜」はまとめて仕込んでおけば、酒の肴として、また料理の合間などにさっと出すことができる便利なもの。ある程度保存もきくので、大量に入ってきた素材も無駄なく使いきれる、効率のよい仕事でもあります。
本書では一見地味ながら、料理店に欠かせないこの仕事に注目。長年日本料理に携わるベテランのみなさんに、85品の常備菜を教えてもらいました。常備菜というと、濃い味付けで煮しめたものや漬けもの、塩辛などを思い浮かべるかもしれませんが、今回は「季節感があるものを」とお願いし、その季節ならではの素材を使った品々を紹介してもらいました。
また、それらを使って別の1品を仕立てる例を紹介している点も、本書の特徴です。
たとえば、
タケノコの味噌漬け(常備菜)…イカの黄身焼きと乱盛りに
…焼き魚の添えものに
キスの昆布締め(常備菜)…黄身揚げに
…煎ったウニをまぶして焼きものに
…菊菜を巻いて先付に
という具合で、ひとつの常備菜につき2品から5品の応用料理を収録。1品作っておくだけで、料理の幅がぐっと広がります。
また、シメのご飯にぴったりのちりめん山椒などの「ご飯のおとも」も18品紹介しました。
※本書は、月刊『専門料理』2005年5、8、11月号、2006年2、5、8、11月号、2007年2月号に掲載した「常備菜の手帖」を加筆し、まとめたものです。
「季節の常備菜」「乾物を使って常備菜」「ご飯のおとも」の3部構成になっています。
「季節の常備菜」では、「春」「夏」「秋」「冬」「一年を通じて」というテーマごとに、その季節ならではの素材を使った常備菜と、それを展開した応用料理を紹介します。各テーマで取り上げた素材は以下の通りです。
春:タケノコ、ウド、フキ、ワラビ、菜の花、ソラマメ、エンドウ豆、タマネギ、鯛、
キス、マス、アナゴ、アサリ
夏:ナス、トウモロコシ、トウガン、キュウリ、ズイキ、ジュンサイ、鮎、ハモ、スズキ、
アジ、アワビ、タコ、タコの子
秋:松茸、シメジ、キノコ、レンコン、栗、小イモ、甘鯛、サワラ、サンマ、イワシ、
子持ちアユ、針イカ、モンゴウイカ
冬:カブ、ダイコン、エビイモ、ゴボウ、牡蠣、ヒシガニ、カニ、タコ、アンコウ、フグ、
カワハギ、ブリ、赤舌ビラメ、サバ
一年を通して:豆腐、湯葉、コンニャク、卵、合鴨、牛肉
「乾物を使って常備菜」では、常備菜に欠かせないぜんまい、シイタケ、黒豆、うずら豆、あらめ、ワカメ、棒だら、身欠きニシン、するめ、干しエビ、干し貝柱の11種類の乾物を取り上げ、それぞれのもどし方と常備菜、常備菜を応用した料理を掲載しています。
また、「ご飯のおとも」として、締めのご飯に添えるおかずとしておなじみの「ちりめん山椒」や「お茶漬けイワシ」「牛肉のしぐれ煮」をはじめ、料理店にふさわしく、まとめて作っておけば何かと重宝するおかずを18品掲載しました。
なお、「季節の常備菜」と「乾物を使って常備菜」では、ひとつの常備菜とその応用料理を見開き2ページ単位で掲載。
右ページで常備菜とその作り方を紹介し、左ページではその常備菜を使った応用料理を掲載する……という簡潔で見やすい構成になっています。
また、各常備菜には保存法と保存期間の目安、他の料理への展開のアドバイスも書き添えました。
常備菜はあまり凝ったものより、さり気ないくらいのほうが広く展開もできるようです。
本書でも、酢や塩で締めただけ、さっと火を通しただけなど、シンプルで手間のかからない品々を多く収録しています。日本料理店に限らず、小料理屋や居酒屋でも広く使っていただける一冊です。