ひたすらおいしいお菓子を求めてきた杉野英実氏が、満を持して放つ書。
『素材より素材らしく』(1998年刊)、『杉野英実のデザートブック』(2003年刊)につづく久々の新刊です。既刊本に比べて、とてもとてもシンプル、簡単なのに「イデミ スギノ」のエッセンスが凝縮されているレシピを紹介します。
見た目も美しく、味は「おっ!」と思えるおいしさ。こんなスイーツをお客様に出したら、「やるじゃん!」と言われちゃいそうなものばかりです。
「素材は、何かを加えることでより素材らしさが出てくる」と杉野英実シェフは言います。素材もつくり方もシンプルだけれども、その素材が何倍もおいしくなるデザートや、ひと手間かけることで素材の味わいを引き出したお菓子を、この本ではご紹介します。
日頃は語らない杉野氏のお菓子づくりへの思いをつづったコラムも随所に盛り込み、その感性を垣間みることができるのも魅力的です。
お菓子好きの方々だけではなく、おいしいものは大好きだけれど日頃お菓子はつくらないというあなたにもつくりたくなる、簡単で極上においしいデザートレシピ43品を贈ります。
また、プロの読者の方々には杉野氏のお菓子づくりの考え方、素材の組合せ方にご注目いただければと思います。
フルーツを使ったものはとくに「イデミ スギノ」らしさがうかがえる最たるもの。素材感の表現は秀逸です。フルーツをレモンの搾り汁や酒と砂糖と合わせるだけで素材感が増すマリネ、冷凍ベリーであっという間につくれるシロップ煮、イチゴやオレンジと白ワインでつくる極上な食前酒、そしてなめらかなムースなど。前半はそうしたフルーツでつくるスイーツでまとめました。
後半はパンでつくるスイーツをご紹介します。果汁などの香りや色を加えてつくるパン・ペルデュ(フレンチ・トースト)はジューシーで、しかも美しい!
また、ハーブやスパイスを混ぜた「香りバター」を塗って焼くだけのラスクは手軽で、アイスクリームをはさむなどその食べ方も提案します。
ダッコワーズなどのベーシックな焼き菓子も杉野流でご紹介します。生地をよりおいしくするポイントも盛り込みました。たとえば2度焼きしたチュイルはむらなくきれいに焼けて、風味がとてもいいのです。
「ケーク」の基本のつくり方はフードプロセッサーで混ぜるだけ。その生地にドライフルーツを加えた彩り鮮やかなものや、ミントでつくるケークにイチゴジャムを添えたものなど驚きのある味わいで、形や見た目も美しいものばかりです。
ほかに黒コショウ入りのメレンゲ菓子やオレンジを加えたクレーム・ブリュレなどもあります。
これまで杉野氏はケーキづくりのテクニックについては語っても、おいしさの背景については多くを語りませんでした。ひとつには「イデミ スギノ」のお菓子が複雑で説明しづらい面があります。しかし、シンプルなお菓子やデザートであれば、わかりやすく語れることがあります。
今回はそんな「イデミ スギノ」イズムとでも呼ぶべき、素材を生かす感性や組合せ方の手法などについて杉野氏に語ってもらいました。関連するそれぞれのレシピの近くに、コラムとして散りばめています。おいしさを生み出す背景を知ることで、いっそう楽しくおいしいスイーツがつくれると思います。
でもパーツならつくれます。それも杉野氏らしいおいしさでつくることができれば、シンプルゆえに杉野氏のレシピを追体験して何がおいしさのポイントかを感じるとることができると考えました。
さらにコラムで杉野氏の考え方や感性を知っていただければ、「何を食べさせたいか」「おいしさのポイントは何か」が見えてきます。そのことで、一つひとつのお菓子に関心が深まり、もっと杉野氏のお菓子感に「近寄れる」と考えました。
この本は、料理はつくるしおいしいものは好きだけれどお菓子はつくらない人=自分のためにつくりました。
*編集部だよりは、こちら