健康的な食材として肉の魅力が見直されてきました。この流れに後押しされて、流通する肉の種類も増え、産地ではよりおいしい健康的な肉を生産するために飼育方法などに工夫を凝らしています。
肉質が異なるこれらの肉のよさを引き出すのは料理人の力量。よりおいしく提供するためには、熟成度合、脂肪の量、赤身の量、部位に合わせた加熱温度、時間の微妙な調整が欠かせません。フライパン、オーブン、スチームコンベクションオーブン、炭火など最適な火入れ手段の選択も必要です。
本書では、肉の火入れに定評のあるフランス料理店「フロリレージュ」の川手寛康シェフが、店で使っている肉を取り上げて、火入れの方法とコツを解説。おいしい火入れのストライクゾーンに的中させる「火入れ力」がつく最強の1冊です。
冒頭では、本編に入る前に肉の火入れのメカニズムをわかりやすく解説。レア、ミディアム、ウェルダンと加熱が進むことによって生じる肉の変化について、料理人としての感覚を「熱の科学」の第一人者である佐藤秀美さん(学術博士)が科学の視点からわかりやすく解説しています。また最近注目されている、肉にグラデーションをつける焼き方と均一に焼く焼き方の具体的な方法も比較解説します。
つづく第1章では、品種の多い牛肉、豚肉、鳥の中から肉質の違う数種を取り上げて、同じ部位の火入れを比較します。例えば牛肉ならば黒毛和牛、ホルスタイン、短角和牛、あか牛、経産牛のロースを焼き分けます。
別のアプローチとして、たとえば羊肉をキャレやセル、エポールなどの部位別に取り上げ、つくろうとする料理に最適な火入れを探っていきます。
最後は火入れの機器の話。なぜこの機器を選択するのか、なぜこの器具が必要なのかを料理人の視線で解説しています。
「肉」と「火入れ」に焦点をあてたレイアウトを採用しました。
第1章の火入れの工程では、プロセス写真を極力大きく使いました。写真の枚数を多くして手順を細かく追うよりも、 写真1点を大きくトリミングして、それぞれの段階での肉の状態がよくわかるようにしたのが本書の特徴です。
ただし、最適の火入れのために必要な鳥類のおろし方については、細かく手順を追っています。
また肉質の違う同部位の火入れの流れが一目でわかるように、加熱方法と加熱時間をチャートにして並べて比較しています。
デザインの秀逸さに加えて、肉本来のおいしさを引き出さなければ、当然お客様の満足は得られません。
オーブン温度を10℃上げたらどうなるか、加熱時間を1分長くとったらどんな変化が起こるか。非常に微妙な調整で、肉がおいしくなるか、あるいは台無しになるかが決まります。なぜサシが多い肉と赤身肉の焼き方を変えなければならないのか、こうした基本的な理由がきちんとわかってこそ初めて最高においしい肉を提供できるようになるのだといいます。
本書は肉を最大限に生かすための火入れ方法を自分で探り、考える力をつけるための参考書です。あらゆる場面で火入れのストライクゾーンに的中させるための応用力をつけることができます。これが本書の一番のおすすめポイントです。
*編集部だよりは、こちら