業界内では有名ですが、昔からサイゼリヤの正垣泰彦会長は独特のオーラを放ち、特異な発想・発言で人を煙に巻くところがありました。
店舗数がまだ18店程度の段階で関係者に1000店構想を語り、共にビッグになろうと言うのですから、たいがいの人間は『また大風呂敷か――』と苦笑まじりになります。
しかしそれはいま現実となりつつあります。サイゼリヤ1000店体制はすでに時間の問題なのです。
著者は20年ほど前から正垣会長に接しており、半信半疑がやがて確信に変わっていく取材プロセスを詳らかにします。
日本の外食元年とされる1970年からこの間の外食企業の栄枯盛衰に翻弄されることなく、サイゼリヤは今日も元気いっぱい。その要素・要因を検証します。
正垣会長は創業当時からレストランビジネスを科学的に捉え、早期段階でバーチカル・マーチャンダイジングを志向しています。
科学の使徒は何ごとによらず観察・分析・検証を繰り返すもの。そして、気づきます。物事には『原理原則』があり、それ以上でもそれ以下でもないことを。それをまた形に顕わすのが『科学する脳』なのです。
さらにブレない経営に必要なのが哲学、理念の経営。これは決して情緒的なテーマではありません。
正しいことを愚直にも繰り返すことが『飛躍へのステップ』を保証する唯一のもの。それは多くの失敗を重ねて初めて体得できるのです。
筆者は、この腑分けによりサイゼリヤの実体を記しています。
サイゼリヤは1967年、正垣会長が理科大の学生時代に産声を上げました。いまなら、さしづめ学生起業家などと騒がれるでしょうが、当時は『学園祭』のノリで店を持った、実際は“背に腹は代えられない”事情があってのこと。
サイゼリヤ提供の創業当時の店内(若き日の正垣会長)、火事で一度全焼した1号店――現在、『教育記念館保存目的』として保存――など貴重な写真。
また、広大な白河高原農場、精米工場のポーションパックシーンも掲載しました。まるでスナックのような1号店の店内とバーチカル・マーチャンダイジングに基づく農場。この二つの点を結ぶもの、それが本書の内容です。
文字本で、しかも限られた写真点数ですが、雰囲気は伝わるはず。
本書は組織論であり、それはまた、紛れもないリーダー論でもあります。いまの時代、かつて栄華を誇った外食チェーン企業のほとんどに、往時の華やかな姿を想像するのはむずかしいもの。
現在の若い人は、ファミリーレストランにウエイティングがかかっているシーンなど想像できないでしょう。消えてしまった外食企業もあります。ですが、そうした有為転変をサイゼリヤは淡々と越え今日があるのです。
長い間、外食雑誌の記者として、この業界と企業を取材し続けた筆者は、“本物”のレストランチェーンを発見することになります。それはブレない思考によって創られたレストランです。
*編集部だよりは、こちら