酒の席でカクテルのうんちくを語るのは野暮というもの。
もののわかった大人同士なら、せいぜいイメージをふくらませるひとことがあればいい。それもたしかに間違いではないのですが。そういってまるで伝言ゲームのように断片的なうんちくの受け売りを続けていった結果、いま、広く知られているうんちくのなかには首をかしげたくなるものも少なからず見られるようになりました。
本書は、そんなあやしげなうんちくのいくつかを、おもに歴史的な観点から見直してみたものです。
「このカクテルはね・・・」なんて今まで誰かの横で語っていたうんちくが、実はなんの根拠もないものだったり、間違っていたりしたら・・・。ちょっと恥ずかしいですね。
内容の濃さとは対照的に、造本は「軽さ」を目指しました。
四六判並製。紙はちょっとザラっとした手触り、手にとると頁数のわりにふわっとした印象。電車の中でも旅先でも、どこでも気軽に持ち歩いて頁を開いて楽しんでほしいとの願いからです。
文字は、読みやすい横書き。各所に登場する年号やカクテルのレシピも、すんなりと読めます。
表紙カバーは黒に近いグレー地に、マットなゴールドでカクテルのイラスト。その上に吹き出しを思わせるタイトルデザインが効いています。各カクテルのタイトル横に添えられた、そのカクテルをイメージしたイラストも、想像力をかきたてます。
うんちく話は21話。
マティーニやギムレットはもちろん、マルガリータ、アメリカーノとネグローニ、アラスカ、アレクサンダー、ダイキリ、ブラディ・メアリー他、日本で人気のカクテルをとりあげ、誕生話から命名の経緯、レシピの変遷、映画や小説の中での使われ方など、あらゆる角度から徹底的に検証。もちろんタイトルとして挙がっていないカクテルも、文中には多数登場しています。
プロのバーテンダーはもちろん、お酒好き、カクテル好き、バー好きの方ならどなたでも楽しめる内容。見出しになっているカクテルにはすべて現在のスタンダード・レシピを添付しました。巻末にはカクテル名、人物名、書名・映画名他の3つの索引もついています。
著者の石垣氏は、お酒好きの翻訳家兼プログラマ。1997年よりインターネット上で「五本でできるカクテル講座」を連載し、これをまとめた著書もあります。膨大な資料を細部まで読み込み、小さな矛盾や間違いも見逃さない目はさすがです。