とんかつの技術
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「ぽん多本家」の「カツレツ」は、〝ハレの日の食事〟と呼ぶにふさわしい、家庭では真似できないアイデアと技術の詰まった逸品だ。まず、とんかつとしては色白の見た目にはっとさせられるが、口にしてからの驚きはさらに上をいく。ヒレのように脂身の存在をいっさい感じないが、味わいはロースそのもの。赤身主体でありながら、コクも備わっている。 「ロースの塊から脂身や筋を徹底的に取り除き、いわゆる〝ロース芯〟だけをカツレツに使うんです」と話すのは、四代目の島田良彦さん。その理由は、脂身と赤身では火の入るスピードが異なるため。ぜいたく、かつ大胆にトリミングをして赤身だけにすることで、均一な火どおりを実現しているわけだ。赤身のみだと淡泊だが、そのぶん自家製の新鮮なラードで揚げてコクと香りをプラスする。 「フライにとって揚げ油は、ある意味〝命〟です。〝すし〟でいうところの〝シャリ〟にあたります。シャリがよくなければ、質のよいネタをのせてもうまいすしにはならない。うちのフライは、うちで炊いたラードじゃないとオリジナルにならないんです」油温を上げながら肉にじんわりと火を入れる。余熱による火入れの時間はとらず、〝揚げ〟だけでほぼカツレツは120〜130℃で揚げ始め、徐々に 完成形にもっていくのも同店のスタイル。こうした独自のレシピが、じつに100年以上にわたって継承され、変わらぬ仕事を今に伝えているのだ。ぽん多本家のメニューには、「穴子フライ」や「きすフライ」「柱フライ」(青柳の貝柱のフライ)など、一般的な洋食店やとんかつ店では見られない魚介のフライもある。これらに共通するのは、天ぷらに使用する素材、いわゆる〝天ダネ〟の定番であるということ。使用する魚介の多くは、高級天ぷら店御用達の業者から仕入れている。 「伝統的な食文化、商売として、天ぷらを意識している部分はありますね。歴代の店主もそうですし、私も修業時代に先輩の天ぷら屋さんから学んだことがたくさんあります。父からも、『天ぷら屋ではキスを見るんだ。キスを見ればその店の格がわかる』と教わりましたね」と島田さんは語り、こう続ける。 「時代の流れのなかで、天ぷらは高級路線も確立されましたが、カツレツなどの洋食は大衆化がどんどん進みました。そうした状況でも、うちは創業以来の〝ハレの日の食事〟という立ち位置をくずさず、この先も歴史を紡いでいきたいと思っています」豚肉を磨き上げ、〝命〟のラードを炊く。名物「カツレツ」を生み出す老舗の仕事ぽん多本家の“とんかつ考"94JR御徒町駅にほど近い場所に店を構える。趣のある、威風堂々としたたたずまいだ。1階はカウンター席、2階(左写真)はテーブル席主体。店内一角に飾られた洋食器のコレクション。いずれも大倉陶園の年代ものだ。昭和後半から平成15年まで使っていたメニュー表には、今とほぼ変わらない店の定番料理が並ぶ。ぽん多本家東京都台東区上野3-23-3☎︎03-3831-2351
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