パンストック 長時間発酵のパンづくり
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073「アールグレイとホワイトチョコ」と「カカオ ド ショコラ」は、どちらもリュスティックと同じように手ごねでミキシングし、分割したら成形せずに焼き上げるパン。製法は一見似ているが、そのベースにある考えかたは対照的だ。カカオ ド ショコラの出発点は、「ガトー・ショコラのような濃厚なチョコレート味のパン」というイメージだった。カカオパウダー入りの生地にチョコレートもたっぷり加える真っ茶色のパン。小麦粉の半量にあたるチョコレートを入れるので、生地はかなり重たくなり、まさにケーキのようにしっとり目の詰まった焼き上がりになる。しかし、そこをなんとかパンらしい軽い食感で、口溶けもよい生地にするために、常温発酵の時間を長くとって生地の持ち上がりをよくしている。また、発酵の前後に、それぞれパンチをするのもこのパンならではのポイント。こまめにグルテンを刺激して生地の張りを保つようにする。 一方の、アールグレイとホワイトチョコは、「紅茶の香りがしっかり感じられるパン」をつくりたくて考えたレシピ。紅茶やスパイス、ハーブなど副素材の「香り」というのはパンを通して表現するのが難しいテーマだ。かなり大量に加えたとしても、その香りはグルテンにマスキングされてしまったり、発酵や焼成の過程で揮発してしまうことが多い。そこで、まずは生地に強い香りが出るよう、抽出したアールグレイの紅茶ではなく、茶葉のままで生地に加えることにした。吸水率の高い生地だから、一次発酵中に生地に紅茶が抽出され、濃厚な香りが移る。また、手ごねする時も、グルテンを出さないようにやさしく扱い、紅茶の香りをできるだけ前面に出すよう意識する。 最終発酵では、どちらのパンも、膨倍率より生地の状態をよく見る。分割でいったん締まった生地をやすませて、グルテンがゆるんだところで焼くと、副素材が多くて重たいカカオ ド ショコラも、グルテンが弱いアールグレイとホワイトチョコも、それなりに窯伸びしてクラムに気泡ができる。また、焼成中にチョコレートが溶けることで、生地の一部はとろりとクリーミーな口あたりになる。もちっとしたパンの生地と、とろりと溶けたチョコレートのコントラストも美味しさのポイント。限りなくお菓子に近いが、あくまでも発酵というプロセスを経たパンならではの焼き上がりだ。一口で分かる紅茶の香り。濃厚なチョコレート味。手ごねの生地で、素材の風味を濃く表現する

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