アンドシノワーズ
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I 山海GEOGRAPHCALFEATURES01419世紀の後半から70年続いたフランスの植民地政策がインドシナ三国の食文化に与えた最大の影響は、灌漑農業による「米の増産と輸出」。米の流通で貨幣経済が進んだ街はその食生活をドラスティックに近代化させた。一方田舎の農村や漁村では昔どおりの家庭食がそのまま残り、都市部とプロヴァンスの色の輪郭は異なるものとなった。 インドシナの食文化の本質は「山や高原と植生群」や「淡水域の生物相」など身近な天然資源を観察し、それらを必要なぶんだけ消費する古典的な食事の実践だと考える。「地理」でインドシナの食を捉えると、山河、海、平野の持ち味が見えてくるだろう。インドシナ半島の中部から北部にかけては、いくつかの山脈と高原が重なり、標高1000mの高地となっている。山々は自然の国境となり、ラオスとベトナムを分けた。かつてはルアンプラバン王国などラオスの主権国家がフランスの保護国となり、ゴムとコーヒーの栽培が導入されたが、生産性は低く、宗主国の影響を受けずにラオス古来の生活習慣が残った。たとえばラオスは国土の8割が山岳だが、その土地の利はインドシナ北部の独特な食文化を育んでいる。北のビルマ、タイの国境付近から流れ込みインドシナを縦断するメコン河は、インドシナ独特の淡水魚食文化を育んだ。雨季に溢れた水はカンボジアのトンレサープ湖に流れ込み、よい漁場をつくる。そこには400種ほどの生物がいる中、食用にされるのはコイ科とスズキ目の淡水魚が主だ。ベトナム人は淡水を「甘い水」と呼ぶが、とくにトンレサープ湖の魚は味がよい。太古に陸に封じられ残った海の魚も多く、淡水フグやシジミ、川エビ、水蛇も食材になる。インドシナ半島の東には南シナ海が広がる。南部のメコンデルタに近い沿岸は河流に運ばれた褐色の土が漂い、海辺も茶色に染まる。この一帯は有機物が豊富なのでカニ漁が栄えたし、ハマグリや小型の赤貝も市場の常連だ。中部ベトナム一帯は外海に面しているのでカツオやマグロが生息する。シャム湾に面する南部カンボジアも近海魚種が多い。海辺の街の一大産業はもっぱら魚醤製造で、ベトナムのファンティエットやカンボジアのカンポットの街に活気を与えた。インドシナ半島の平野は北部の紅河、南部のメコンなど大河の流域と河口部に集中し、その食の特徴は外国文化の影響によるところが大きい。メコンデルタは早くから植民地政策による灌漑農業が進んだことからフランス食文化の影響を受けたし、米の流通を担った華僑も多く暮らす。休耕田の落ち穂では鶏や牛が飼育され、かの地の食を彩った。古来の食と外国文化、そして南国ならではの豊富な食材のミックスアップは、いかにもインドシナらしい食の背景だ。p.024~049p.052~065p.068~075p.078~121地理で見る旧フランス領インドシナの食文化湖沼・川平野部
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